Shopping Cart
Your Cart is Empty
Quantity:
Subtotal
Taxes
Shipping
Total
There was an error with PayPalClick here to try again
CelebrateThank you for your business!You should be receiving an order confirmation from Paypal shortly.Exit Shopping Cart

           心の隙間 14.

 「広瀬です。今お話しして大丈夫ですか?」


「はい」


 比較的明るい声だった。石崎は思いがけない広瀬からの電話で嬉しかった。


「お母さん大変でしたね。大丈夫ですか?」


「はい、お陰様で腕の骨折だけでしたから、そう心配はなさそうです。ただ、仕事の方はしばらく無理なようです」


「災難でしたね。早いご回復をお祈りいたします」


「ありがとうございます。広瀬さんには短い間でしたが色々お世話になりました」


「いえ、お世話になったのはこちらの方です。明日お帰りになるとのことですが、何時頃になりますか?」


「はい、朝10時頃の新幹線しようと思っています。平日だから予約なしで乗るつもりです」


「お見送りに行きます。では、10時に新幹線の改札に行きます」


「いえ、お出で頂かなくても。明日はお勤めでしょう?」


「はい、でも大丈夫なんです」


 石崎は嬉しかった。もう会えなくなると悲しく思っていた。しかし、口から出た言葉は、


「いえ、却って寂しくなりますから…」


 石崎は却って寂しくなりますと、心の内を言ってしまった。広瀬はそれを聞いて無性に会いたくなった。


「これから、そちらへ伺います」


 入口で靴を履き始めた。スマホが鳴った。石崎からだった。沈んだ声で、


「折角ですが、明日の用意がありますので、申し訳ありませんがお断りいたします」


「わかりました。では明日お見送りに行きます」


「いいえ、実家に帰って、落ち着きましたら、お手紙いたします。色々ありがとうございました。失礼いたします」


 石崎は言葉を区切るように言った。広瀬は入口に、しばらくそのまま立っていた。


 それから半月程して石崎から手紙が届いた。


〝前略


  お元気でいらっしゃいますか。私は元気に致しております。こちらはお店が忙しくて毎日毎日が戦争の様です。


 ご心配おかけ致しましたが、母の骨折も経過が良く、後二か月程で普通に動かせるようになるとのことです。


 私は、その頃に仙台へ戻りまして引っ越しを致します。広瀬様には大変お世話になりました。


 あの頃の私は、人間関係で色々悩んでおりました。広瀬さんのお人柄に、人の在り方を知ったような気が致します。


 今、お陰様で誰にでも優しくなれるような気がします。男の人は全て自分勝手だと思い込んでいました。


 特に父にはそう思っていました。広瀬さんとお会いしてから考えが変わりました。今、一番の理解者です。


 お店を継ぐことに決心致しました。一人娘ですので、それが運命だったのかも知れません。


 誤解を承知で申し上げますと、広瀬さんとお会いしたのが一番の運命だったと思っております。


 本当に色々ありがとうございました。取り敢えず状況をお知らせ致します。


 末尾になりますが、どうぞお身体お大事下さいませ。お会い出来る日を楽しみに致しております。   かしこ〟


 読み終えた広瀬は、胸中が複雑で整理がつかない。淡い想いが薄らいでいくのを感じた。

次回は最終回です。7月2日朝10時に掲載致します