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        偽浮浪者 10

 「そうか、今日は見かけなかったか」


「はい…。あのう?麻薬とかの取引でしょうか?」


「ははは、そうかも知れないね」


 浮浪者が手際よくスーツに着替え、車で颯爽と立ち去る。映画のシーンのようだ。


 会社の運営とはそれを超える複雑怪奇かも知れないと石田は思った。現に、近々自社の社長交代がある。


 石田の会社は17社ある系列会社の一つである。社長は系列本社からの移動が多い。明日の自分はわからないと思った。


 そこは駅近くのパブレストラン。店員の案内は無い。住田はどこに座って良いかわからずカウンターに座った。


 カウンターを中心にテーブル席が3席のこじんまりした店だ。カウンターには男女二人の先客がいた。


 約束時間少し前に彼女が入って来た。


「お待たせしましたね。ごめんなさい」


「いえ、僕も今来たばかりです」


「あら、まだ何も頼んでいないの?」


「ビールで良いですか?」


「良いわよ。お腹空いたでしょう?ここ、チーズピザ美味しいのよ」


 住田はカウンターの女性店員に手を上げた。


「えーと、ビールとチーズピザ2つ下さい」


 彼女と向き合い、乾杯をした。目が合ってどきりとした。一昨日の朝出会った時の彼女と違う。


 肩までしなやかに伸びた黒髪。色白の顔に澄んだ切れ長の目。濡れたような唇。笑みを浮かべた優しい顔。


「少しは落ち着いたかしら?」


「えっ、何がですか?」


「良いわよ、隠さなくても」


 住田はもうそのことは思い出したくなかった。二度目の失恋だった。今回も一方的に断られたようなものだった。


「人の出会いは不思議なものがあるのよ。これから本当の出会いがあると思って良いわよ」


「本当の出会いって?」


「どんなに離れようとしても離れられないの」


「経験したのですか?」


「私もそれを待ってるの。これまで星の数ほどでは無いけど人を好きになったことがあるわ」


「それが失恋ですか?」


「その人は他の人と結婚したの」


「愛し合っていたのでしょう?」


「私は愛していたわ。もう忘れたわ。あら、何で私の話になるの?」


「僕にも不思議な出会いがあると良いな!」


「あるわよ、住田さんは良い人だもの。顔に出ているわ。それに素敵な顔をしているわよ」


 彼女は住田をじっと見つめた。


 住田は思わず目をそらした。


                     つづく

次回11回は5月4日金曜日朝10時に掲載します