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       偽浮浪者 3

 「この辺りで、朝、浮浪者とかホームレスとか見かけたことはないかな?」


「ありますよ。昨年の春辺りから時々見かけます。考えてみれば変ですよね。駅周辺とか大久保辺りならわかりますが」


 そこまで聞けば十分だった。住田は石田専務とぶつかったことは気付いていないようだ。


 住田は専務と二人きりで話が出来たことを光栄に思った。自分の顔など知らないと思っていた。


 最後の一口を飲み終わると、


「急ぐところを引き留めて悪かったね。先に出て良いよ。私はもう少しゆっくりして行く」


 石田は役員研修は本当だったと確信した。まだ一週間しかならないが人の心の在り方を学んだ気がした。


 浮浪者の成りをしていた時は缶やごみ拾いしていても誰も見向きもしなかった。


 ところがスーツ姿でビニール袋を手に缶やごみを拾っていると、おはようございますとかご苦労様ですと、行き交う人が声をかけて行く。


 それは耳に心地良かった。浮浪者姿の時は声をかけられるどころか冷たい視線を感じた。


 恥ずかしさでいっぱいだった。石田は人の善意とは何かと改めて考えさせられた。


 そして思い当たることがあった。前社長の言葉だ。


「社長のおかげです。ありがとうございました」


 石田がお礼を言うと社長は苦い顔をして、


「君もいずれは社長になる。部課長と社員の成果は必ず公にする事。しかし、社長の成果は表立ってはならない」


 当時は意味が良くわからなかったが、今わかった気がした。


 専務の石田が浮浪者に扮し、ごみ拾いをしていたにはわけがあった。


 ひと月程前、駅近くのビルにある小さなクラブ。石田は出されたおしぼりで手を拭きながら、


「ママ、今日も綺麗だね。しかし、相変わらずで変わらない。たまにはブスになったら?」


「ご挨拶ですこと、持って生まれた美貌は変えようがございませんの」


「つまらない店だな。帰ろかな!」


「あら、今日は特別美味しい話をご用意してたのに、残念ですわ」


 とつれない返事。 


                       つづく

次回4回は3月16日金曜日掲載します