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     偽浮浪者 14

 住田には『いませんよ』の言葉は嬉しかった。しかし、白井の心の内はわからなかった。


 それでも二人の会話は弾んだ。時は早く過ぎた。直に22時になる。二人は店を出た。


 山手線は内外周りで別々の方向になった。しかし、住田の心には灯がともっていた。


 翌朝、当番は無いが浮浪者の着替えが気になりアパートを早く出た。


 駐車場入り口で待機したが浮浪者は来なかった。先日より20分程長く立っていた。


 いつものコンビニへ行くと山口瑠美子が珈琲を飲んでいた。いつもと逆である。


「あら、今日は遅いわね」


「山口さん、僕ね、振られたんじゃなかったみたいです」


「あらそう!それは良かったわね。告白でもされての?」


「いやそうじゃなくて、僕の勘違い。彼女に恋人はいないんです。色々ありがとうございました」


 住田の目が明るく輝いているのを見て、山口は何だか嬉しくなった。自分の弟みたいな気がしていた。


「じゃ、私先に出るわね」


 住田も続いてコンビニを出た。専務に今日も浮浪者が来なかったと報告しようと思った。


 先週末、石田専務は社長に呼ばれた。


「ま、掛けなさい」


 いつもにこやかに迎えてくれる社長が厳しい顔に見える。何か失態をしたかと不安になった。


「どうかな、最近の体調は?」


「極めて元気です。丈夫が取り得ですから」


 なぜ体調を聞く?石田は益々不安になった。


「君に社長をやってもらう」


 命令だった。有無を言う余地はない。


「実は浮浪者の話。あれは会長の発案だ。君は合格だ。私も試された」


 社長はにこにこしながら話を続ける。


「浮浪者体験にはわけがある。経営の原点に触れて貰うためだ」


「経営の原点とは水墨山水画の画法「経営位置」にある」


「それは主題(題材)と背景との按配を言う」


「浮浪者体験は主題のマイナス点から始まる。その状況を強い意志で打破する。そして背景との按配を考える。経営の原点だ」


 石田専務は唖然として社長を見た。


                      つづく

次回は6月1日金曜日朝10時に掲載します