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    偽浮浪者 11

 「住田さん、好い人思い出しているのでしょう?」


 目をそらした住田を、彼女はにっこり微笑みながら問いかける。


 彼女はずいぶん年上に思えたが、五つ違いの二十九歳。名前を山口瑠美子と言った。


 住田の頭の中は、今隣に座る彼女のことが色々と気になっていた。


 こんなに素敵な人に彼氏がいないわけがない。見透かされたような気がして素っ気なく、


「思い出すことなど何もありません!」


「あら、怒ったの?ごめんなさい」


 その優しい言い方に、住田の心には淡い光が灯り始めた。


「山口さん、僕は今世の中の広さがわかった気がしています」


「どう言うことかしら?」


「自分がいかに世の中を知らなかったかと言うことがわかって来たのです」


 住田はこの後どう言おうかと迷った。バーテンに勧められたカクテル、マティーニを口に含んだ。


「例えば浮浪者です。人生の落後者だと思っていました。ところが敢えてその姿をする人がいるのです。女性もそうです。綺麗なだけで好きになり恋をしました。ところが心を震わすような素敵な人がいることを知りました」


「そうなのよね。歳を重ねるごとにわかる事ってあるのよ」


「山口さん、失礼ですけどお付き合いされている人いるんでしょ」


「いないわよ、どうして?」


住田は返答に困り、


「今度は何のカクテルにします?」


「甘くてアルコールの強くないカクテルは無いかしら」


 住田がバーテンに聞くとバレンシアはいかがですかと言う。それを注文した。


「あら、はぐらかされたわね」


 彼女は聞き上手だった。それから約一時間、住田は殆ど一人で話していた。


 帰りは別々だった。彼女は地下鉄、住田はJRだった。改札で彼女を見送った。


 住田はこれまでこんなにせつなく悲しい気持ちになったことは無い。心がギューッと締め付けられていた。


                   つづく

次回12回は5月11日金曜日朝10時に掲載します