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 「あ、ごめんなさい。やっぱり人違いですね」


 突然の事に彼女は何も言えず、黙って男を見た。


「驚かせてすみません。目が悪いものですから、お見忘れして失礼したのではないかと戻って来ました。ごめんなさい」


 男はすまなそうな顔をして謝る。


「こちらこそすみません。失礼しました」


 男が戻って来た理由がわかり安心した。因縁でも付けられるのではと女は心配していた。


「それじゃ、どうも」


 男は来た方向へ引き返して行った。その後姿と歩き方がそっくりである。目で追っていると偶然男が振り向いた。


 彼女が自分を見ている。男は何を思ったのか、急ぎ足で引き返して行った。


 考えてみれば、彼女は人違いでしたと一言も言っていない。やはり自分が見忘れているのかも知れないと思った。


「失礼ですが、どこかでお会いしましたでしょうか?実は私、健忘症なんです。不安で確かめに参りました」


「健忘症?」


「はい、医者からそういう時は、迷いが残らないように確かめることが一番だと言われました」


「人違いです。ご心配なさらないで下さい」


「そうですか、それは残念です。お知り合いだったらと期待して来たのですが…」

彼女は返事のしようがなく黙っていると、男は上を指さして、


「立ち話もなんですから、丁度この上あたりにおいしい珈琲店があります。行きませんか?」


「いいえ、折角ですが時間がありません」


「5分程で良いです。健忘症の治療だと思って、お願いできませんか?」


 彼女は健忘症と聞いておかしくなり、くすっと笑った。

こんな誘い方もあるのね。少しの時間ならと思った。


 軽くうなずくと、男は嬉しそうな顔をして、


「ありがとうございます。では行きましょう」


 つづく

次回は3月22日金曜日に掲載します