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         人込み 14 

 この1週間で急に秋らしくなった。来週から11月である。麗子の就職先はまだ決まらない。


 失業保険は今月10月まで支給される。倒産による特定受給は240日である。月日の経つのは早い。焦りが出てきた。


 今日は藤野と会う約束である。先週の金曜日に会って、まだ1週間しか経たないのに待ち遠しかった。


 最初に行った喫茶店。なんだかそわそわして、18時の待ち合わせに30分も早く行った。


 時間のせいか比較的空いていた。直ぐわかるようにと、入口近くの窓際に座った。モカを注文した。


 10分前に藤野が入って来た。気付かぬふりをして本を読んだ。


「やあ、待たせたね。ごめんね」


「ううん、私も今来たところよ」


「それ、この前の本?」


「そうよ。先日はありがとう。おかげでこうして読めるの」


「夢中になっているようだから、よっぽど面白いんだね」


「何に致しますか?」


 店員がすぐに来た。


「モカをお願い。何飲んでるの?」


「私もモカよ。好きになっちゃった」


 麗子は茶目っ気顔で言う。そして、


「時代小説なの。人情ものよ。女流作家の新作なの。視点が女性だから共感することが多いの」


「僕も時代小説好きだよ。人情ものと言ったら、平岩弓枝の〖ちっちゃなかみさん〗読んだことある?」


「あるわよ。泣いちゃった」


「嬉しいね。相当色々読んでるみたいだね。じゃ、落語聞いたことある?」


「どうして急に落語になるの?」


「人情ものでは、小説だけでなくぜひ知って貰いたい話がある。芝浜と中村仲蔵。ストーリーとして素晴らしい」


「どんな話なの?」


「両方とも女房の話だよ。涙が堪えられなくなる。女房の心が、せつなくて堪らないんだな」


 藤野は言いながら、目の前の川村がストーリーに重なった。思わず目を逸らした。


「是非聞きたいわ。どこで買えば良いの?」


「買わなくて良いよ。CD聞ける?」


「あたし、CD聞けないの。ラジカセ持ってないのよ」


「パソコンは?」


「あ、そうだ!パソコンで聞けるわね」


「明日、持って来てあげる」


「本当!嬉しい!何時頃?」


「午後1時頃でどうかな?」


「私は、いつでも良いわよ。今日だって」


「えーっ、今日?わかった取りに行って来る。ここで待ってて。1時間ちょっとで戻って来る」


「そんなに待つのは嫌だわ。それなら一緒に行ってだめ?早く聞いてみたいの」


「うん、じゃ行こう」


 二人はごく自然に店を出た。


                       つづく

次回は6月14日金曜日朝10時に掲載します