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 〝教えられません。新宿行きの電車無くなりますよ〟


 メールで返信した。


 新宿行の終電車は今降りれば十分に間に合う。麗子は調布で降りる。新宿から20分弱である。


 麗子はがっかりした。藤野に会って男の印象が変わった。二面性を持つ下劣な男達とは違うと思っていた。


 私が家に入れるとでも思ったのかしら、甘く見られたものね。嫌らしいわ。と思いながらも軽い興奮を覚えた。


 男は生殖本能に生きる下劣な動物だわ。男はやっぱりみんな同じ。藤野君も同じだったのね。


 その時、藤野からメールが入った。


〝了解です。本の忘れ物。最寄りの駅で降りてね。ホームで渡す。駅連絡下さい〟


 タクシーの運転手がお釣りを渡す時気付いてくれた。改札で渡すつもりが、握手で持ち替えたまま忘れてしまった。


 藤野は次の電車に飛び乗った。咄嗟の勘だった。


 新宿終電着が0時49分。麗子は11時19分に乗った。


 降りる駅は新宿から近い駅と言っていたから片道30分以内と考えると、降りたところで渡して戻って来れる。


 麗子は恥ずかしくなった。考えすぎたことに、ひとりでに頬を赤くした。


 今日は待ち合わせまで、たっぷり時間があった。紀伊国屋で本を買った。新書版なのでハンドバックに入らない。手に持っていた。


 〝調布のホームの中頃でお待ちします〟


 麗子は急いでメールを発信した。申し訳ない気持ちでいっぱいになった。ひどい誤解をしてしまった。


 本は次回会った時で良いと断っても良かったが、電車で追いかけてくる藤野の気持ちを考えると断れなかった。


 15分後、藤野は隣の電車からにこにこ笑いながら降りて来た。


 「ごめんね。渡すのをうっかり忘れてしまった。じゃ、おやすみなさい!」


 藤野は向いのホームに走って行った。麗子はありがとうと言うのが精一杯だった。胸が熱くなってきた。


 向いのホームに上り電車が入って来た。乗り込んだ藤野が、麗子ににっこり笑って手を振っている。


『私、心が荒んでいたのかも知れない』


 その麗子の心に、まだ小さいがぽっと灯りがともった。


                        つづく

次回は6月7日金曜日朝10時に掲載します