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 プシュー!ドアが閉まった。ドア越しに藤野を見たが角度が悪く見えなかった。始発駅だがもう座る席は無かった。


 ドア横に立ち、窓を飛び行く家並みの明かりに、ふと思い出した。当時、あの男は駅までよく送って来てくれた。


 男に妻子があると聞いたとき、初めは何を言ってるのか理解出来なかった。頭が白くなった。


 子供がいる。女の子で2歳になると言う。この人は結婚してるのだとやっと理解した。でも、どうして?


 付き合い始めて3か月目の頃に生まれたらしい。身体が寂しかったから、大人の付き合いのつもりだったと言う。


 私は2年の間、夢を見続けていた。育児の本や料理の本を買って、密かに学んでいた。いつ言われても良いように。


 男は来月から東京本社に戻ることになった。家族と住むことになる。はっきりけじめをつけて置きたいと言う。


 私はこの人にとって何だったのだろう。この人に私を気遣う気持ちは、微塵もなかった。容赦のない言葉だった。


 男のアパートを飛び出すように帰って来た。追いかけても来なかった。悔しさはなかった。悲しいだけだった。


 どう生きて良いのかわからなくなった。夜中に踏切まで歩いた。電車の警笛で後ろへ下がった。轟音が過ぎて行った。


 轟音が気付かせてくれた。私が死ぬことは無い。卑劣な男は生きている。いつか見返してしてやる。私は生きる。


 だが、世の中の男は皆同じだった。身近で見る男性社員の上司へ態度。日頃は悪口三昧。対面するとお世辞ばかり。


 取引先への態度もそうだ。注文が細かいとか横柄だとか陰口ばかり、そのくせ注文が入ると嬉々として話している。


 男は下劣な生き物だ。裏の顔が見え見えである。人を騙すことを当たり前としている。男は二面の顔を持つ。


 女は基本的に人を思いやる心を持っている。母性本能と言うのがそれだ。理屈抜きに人を思いやり、助ける。


 男にはそれが無い。あるのは生殖本能だけだ。自己の満足のためだけに動く。下劣な動物だ。


 麗子は世の中の男を軽蔑し、完全な男嫌いになった。そんな男へ見返しさせても、意味の無いことだと思った。


 それから10年の歳月が流れた。麗子は40歳を過ぎた。長年勤めた会社も倒産した。いつしか世の中が違って見え始めた。


 藤野は思ってることをすぐ顔に出した。良いも悪いも、言葉より先に顔に出た。正直というか、裏がなかった。


 麗子は藤野と再会して10日近くなるが、男は下劣ということを忘れていた。


 その時メールの着信があった。見ると藤野だ。後続の電車に乗った。どこで降りる?と書いてあった。


                        つづく

次回は5月31日金曜日朝10時に掲載します