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人待ちおでん屋台 6.

「そのようだね。春まで持ちそうかな?」


「どうかしら?あら!皆さんすみません。この方、最初のお客さんなんです」


「えっ、おれが最初の客かと思っていた」


 後から来た、目ぎょろぎょろの男が言う。スーツ男は無視するかのように、


「だいこんとさつま揚げと玉子」


 女将は直ぐさに皿に入れて出す。


「どうぞ」


 スーツ男は黙って受け取ると、だいこんを箸で割りがぶりと口に入れた。


「うまい!この味だ。おでんは種だと思っていたが、味付けだな」


「ほう!味にうるさい人なんだ」


 ぎょろ目男がにやっと笑いながら言う。女将が話題を変えるかのように、


「ありがとうございます。褒めて頂いたのですね」


「久しぶりだが、この匂いが良いね。おでん屋だ」


「当たり前だよ。おでん屋だから」


 ぎょろ目男が口を挟む。


「ハハハ、そうだった」


「うーん、そう言えば匂いのしない店が増えたね」


 佐伯が場を取り持つように言う。


「あらそうなの?」


 女将がどうでも良いように言う。佐伯は真っすぐに受けて答える。


「高級な店程匂いがしない。昔は焼肉屋はもちろん、中華屋に入ると中華屋の匂いが服に沁みついた。今はしない。消臭でもしているのだろうか」


「そう言えばそうだな」


 ぎょろ目男が答える。


「考えてみたら、世の中から匂いが消えているのかも知れない。これは怖いことかも知れない」


 佐伯は言葉を続ける。


「テレビ等で匂いのことを香りと言っているが違和感がある。香水などは香りで良いが、食べ物に良い香りとは何だか気持ちが悪い。うな重の蓋を開けたとたん、良い香りだと言う。バカと言いたい」


「その言い方、おかしいですか?」


 水野が不思議そうに訊く。


「おかしくないと思うよ」


 ぎょろ目が答える。


「匂いと香りは現象は同じでも、食べ物は匂い。香水などの身につける物は香りと言うんだね」


 佐伯がしたり顔で言う。


「変だな、香水だって良い匂いと言うよ。それはおかしいよ」


 ぎょろ目が口を出す。


「そうだね」


 佐伯は一言言うと黙ってしまった。この男とは論じるほどでもないと思った。


「難しいお話ね。でも、思い出したわ。お寿司屋さんって、香水付けた人嫌がるんですってね」


 女将がとりなすように話に続けた。


「そうだよ。ネタが腐ると言うんだよ」


 ぎょろ目が得意げに言う。水野はますますわからなくなってきた。


「どうしてですか?」


 水野が聞いた。


「香水の匂いは、ネタの微妙な匂いをわからなくしてしまうからだよ。寿司職人は微妙な匂いも味だと言っている。もっとも、最近ではそう言う職人は少なくなったようだ」


 佐伯が答える。


「そう言えば、お寿司屋さん自体が少なくなりましたわね」


 女将が口を添える。


「そうだね。寿司屋は少なくなった。回転ずしが増えたね。だから、頑固な寿司屋も少なくなった。寂しいね」


「ママ、お愛想」


 スーツ男が言う。


「えっ、…はい。500円です。お忙しいのですね」


「近くに来たから、ちょっと寄ってみた。又、来ます」


 女将は明るく言うが、その顔は水野には寂しそうに見えた。スーツ男は来た道を戻って行った。                つづく

続き7は5月6日金曜日朝10時に掲載します