Shopping Cart
Your Cart is Empty
Quantity:
Subtotal
Taxes
Shipping
Total
There was an error with PayPalClick here to try again
CelebrateThank you for your business!You should be receiving an order confirmation from Paypal shortly.Exit Shopping Cart

人待ちおでん屋台7.

 「良いですか?」


 スーツ男と入れ違いに初老の男が入って来た。タオル等の入った小さなカゴを抱えている。


「いらっしゃい、どうぞ」


「良い匂いがする。おでん貰おうか」


「はい、何にいたしますか?」


「さつま揚げにだいこん」


「どうぞ、」


「おっ、これはうまい」


 初老の男はだいこんを口に入れている。ぎょろ目が答えるように言う。


「うまいでしょう。後を引くと言うか、また食べたくなる。しかし、だいこんから食べるとは通ですね」


「通ではないが、この味は郷愁をそそると言うか懐かしい味だ」


「そうか、懐かしい味。口に入れた途端、安堵が広がる。女将さん、もう一度だいこん入れて」


 ぎょろ目は何だか嬉しそうに言う。屋台主はママと呼ばれたり女将と呼ばれたり客次第である。 


「すみません、お幾らですか?」


 水野が訊くと女将は皿の串を見て、


「4百円です」


「じゃ、私も」


 佐伯が言う。二人は連れだって帰って行った。佐伯の自宅は逆の方向だった。


「あれ?佐伯さんもこちらの方でした?」


「いえ、違います。この先に喫茶店があるんですよ。珈琲が飲みたくなりまして、良かったら水野さんもいかがですか?」


 水野はこの喫茶店に入ったことが無かった。洒落たモダンな造りでいつか寄って見ようと思っていた。少し迷ったが、


「私も寄ってみようかしら…」


「珈琲が旨いんですよ。入りましょう」


 佐伯は行き慣れているようで、真っすぐに窓際の席に座った。他に客はいなかった。座ったままで珈琲を二つと手を上げて頼んだ。


 「この店良く来るんですよ。珈琲がおいしくて、休みの日は殆ど来てます」


「私は近くにありながら、一度も来たことがなかったのですよ」


 そこへ、珈琲の良い香りを漂わせながら珈琲が運ばれてきた。


「どうぞ!」


 勧められて水野は口元へ運んだ。良い香りと一緒に一口飲んだ。


「おいしいですね。それに、香りがとても良いですね」


「おいしいでしょう。水野さんもブラックなんですね。僕もそうなんです。それと音楽が良いでしょう」


「流れている曲ですか?」


「そうです。バロック音楽がいつも流れているんです。珍しいですよね。マスターの趣味だそうです」


「こういう曲をバロックと言うんですか?」


「有名な曲ではG線上のアリアなどがあります。ご存じですか?」


「はい、知っています。他にはどんな曲がありますか?」


「水上の音楽とかたくさんあります」


「水上の音楽て聴いたこと無いですね」


「今度お持ちしますよ。明後日の日曜日にここに来ませんか」


「明後日は予定がありますので来れません。ごめんなさい」


 佐伯は断られると思っていたので、


「残念ですね。また機会がありましたら」


 彼女は若すぎる。5,6歳は違うと思った。断るのは当然と思った。


「明日はだめですか?土曜日で休みなんです」


 彼女は申し訳なさそうに言う。佐伯はやっぱり断られたとがっかりしていた。その矢先へ明日はという。一、二もなく返事した。


「ええ、良いですよ。何時頃が良いですか?僕も休みだから、いつでも良いですよ」


「良かった。でしたら、昼過ぎの1時ではどうでしょうか?」


「わかりました。ここでお待ちします」


 佐伯は目の前がぱっと開けたような気がした。まさかに彼女が会ってくれるとは夢にも思っていなかった。もう、浮き浮きして来た。

                            つづく

次回8回は20日金曜日朝10時に掲載します