うちのひろと

♪退屈な待ち時間などに3分小説をどうぞ
面白い!気分が明るくなります。読後感が爽やかです
3分41話.5回8話.10回6話.15回7話.23回1話
時代小説9話
[がまの油売り][ひきょうもの][やぶ医者俊介]
[どんぶりめし][人に華あり][おつる][ちんこきり]
[護り屋異聞記] [片腕一刀流]
8.おみつの心配
「良太さん、起きて!」
新年である。正月の用意が出来ていた。箱膳にはお重に入ったおせちが並び、後は餅を焼くだけになっていた。
おせちは、昨日良太が寝ている間に、居酒屋門仲で貰って来た。作り方を教わるつもりで行ったのだが、簡単に出来ないからと持たせてくれた。重箱に詰められたおせちは、おみつは初めてだった。
良太は自分の体が布団に溶けてしまったようだった。おみつに起こされた理由がわからない。ぼーっと頭が重い。体はけだるく心地よい疲れが残っていた。起きたくない。
「眠たいよ!」
寝ぼけ声で言い、布団を頭からかぶった。
「良太さん。新年よ。起きて下さいな」
おみつは被った布団をそっと捲くりながら、優しく言う。
部屋中明るくなっていた。それもそのはず、朝五つ半(午前九時)である。
「お正月よ、起きて。お願い」
おみつは良太の顔に頬ずりしながら、甘えるように言う。良太はその口に口づけをした。覚えたばかりの口づけだったが、おみつは身体が甘くなった。そのまま二人は一つになった。
「おめでとうございます。これからもよろしくお願いします」
おみつは両手をついて改めて挨拶をした。
「おめでとう!こちらこそよろしく」
清々しい正月だった。
二人は盃を交わし、互いに見つめ合った。おみつは途端に頬が赤くなった。良太に見つめられ、さっきまでの自分を思い出した。
「おみつさん!重箱に入ったおせちは初めてだよ。おいしそう!どこから食べていいかわからないよ」
「好きなものから食べて。いっぱい食べてね」
「おいしいな!でもこんなにきれいに並べてあると、食べるのがもったいないようだ」
良太に言われておみつは気恥ずかしかった。おせちは貰って来たものだったからである。餅が焼けたようだ。
おみつは立ち上がると雑煮を運んで来た。これは正真正銘、だし汁からおみつの手作りである。
「熱いから気をつけて食べてね!」
良太にもおみつにも、生まれて初めての幸せな素晴らしい正月だった。
食事が終ると二人は永大寺に初詣に行った。おみつの心配が当たった。
永大寺は初詣の人々で溢れていた。二人は並んでそれぞれに祈念し、境内を歩いていると、前から来た男に、
「おみつ!久しぶりだな、ちょっと顔を貸してくれ!」
おみつは良太の後ろへ下がろうとすると、男はおみつの手を捕まえた。
「やめろ!」
良太は男の手を撥ねのけた。その瞬間、男は良太の頬っぺたを平手打ちにした。周りの人々はさっと後ろへ引いた。
男は続けざまに足で蹴り上げた。良太はその足を両手で捕まえると思いっきり上にあげた。男はどさっと地面に仰向けにひっくり返った。男は機敏に立ち上がり、
「この野郎!」
と顔を釣り上げて殴りつけてきた。
良太は殴られたとき、どうすれば良いか体で知った。しかも以前の良太ではない。大工として鍛えられた肉体を持ち、大工として研ぎ済まれた反射神経を持つ。相手の動きが手に取るように読める。殴りつけてきた手を発止と掴み、そのまま捻りあげた。
「いててて、て!」
男は悲鳴を上げた。良太は手を放した。男は余程痛かったのだろう。手を押さえると、
「覚えてろ!」
捨て台詞を吐いて一目散に逃げた。
「おみつさん!大丈夫か?」
「はい」
俯いて小さな声で返事をした。
「知ってる男か?」
なぜかおみつは黙っている。
「おみつさん、心配事があるなら言ってごらん」
おみつは意を決したように、
「ごめんなさい。あたし言えなかったことがあるの。家に帰ったら何もかも話します」
「良いんだよ、言いたくないことは言わなくて良いんだよ。でも何かあったらおいらが守ってあげるから心配しなくて良いよ」
おみつは突然良太にしがみついて泣き始めた。
「どうしたんだよ!さ、帰ろう」
その時ぱらぱらと男が三人、二人の前に立塞がった。
三人の男は機敏だった。良太の動く前に良太の左右から、肩と手を押さえつけた。
おみつはもう一人の男に両肩を掴まれた。全ては一瞬の出来事である。
参拝者には知り合い同士に見えたであろう。
「黙ってついて来な!」
どすの利いた低い声だった。
つづく
次回は2月14日火曜日です。
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