うちのひろと

♪退屈な待ち時間などに3分小説をどうぞ
面白い!気分が明るくなります。読後感が爽やかです
3分41話.5回8話.10回6話.15回7話.23回1話
時代小説9話
[がまの油売り][ひきょうもの][やぶ医者俊介]
[どんぶりめし][人に華あり][おつる][ちんこきり]
[護り屋異聞記] [片腕一刀流]
6.道具箱
朝飯を食べ終わり、二人は顔を見合わせながらゆっくりお茶を飲んでいた。
おみつは幸せだった。良太が目の前にいる。片手で湯呑を持ち、時々おみつをじっと見つめる。見つめられたおみつはぽーっと赤くなった。何もしてくれなかったけど、一晩抱き合って寝た。思い出すと嬉しい。
しかし、良太は時々ため息をつく。そして、なぜか落ち着かない。
「どうかしたの?さっきからため息ばかりついているけど」
「何でもない!」
「ね、話して。あたし何だか心配になって来ちゃった。あたしと一緒に寝たから?」
「そんなんじゃない!」
おみつは、下を向いた。あたしたち何でもなかったのよと恨み事を言いかけて止めた。
良太は道具が気になっていたのである。毎朝の手入れは習慣になっていた。昨日の朝はいつも通り手入れをした。
今朝は手入れが出来ない。取りに戻ろうと思ったが、一年ぶりの帰宅になる。親方に父っつあんのこと聞かれるだろうと思うと、どうしたらいいか迷っていた。
「ね、どうしたの?何か心配事?ひょっとしてお金?だったら少しだけどあるわよ」
「そんなんじゃない!道具だ。手入れがしたい」
「なによ!そんなこと、取ってくればいいじゃないの」
おみつに言われて気が付いた。簡単なことだ。取りに行ってくればいいじゃないか。くだくだ考えた自分が馬鹿らしかった。
「おみつさん。ひとっ走り取ってくらあ」
良太は急に明るい顔になって立ち上がった。
「帰って来てね。良太さんお願いよ」
おみつは必死な顔になった。取ってくれば良いと言った自分に後悔した。
良太は急ぐように出て行った。裏から持ち出せば親方には見つからない。どうしてそれに気づかなかったのだろうと思った。
しかし、歩きながら考えた。こっそりはいけない。親方にわけを言って持ってこよう。父っつあんのことはどうにでも言えると思い直した。
本所の棟梁の家に着いた。おかみさんが玄関を掃除していた。
大晦日だ、どこの家も大掃除だ。
「良太!どうしたんだい?」
おかみさんが心配そうに言う。
「道具の手入れをしたいので取りに来ました」
「あら、偉いわね。親方は中にいるよ。せっかく来たのだから、上がってお茶でも飲んで行きなさい」
「親方!良太が来ましたよ」
良太が訪なう前に親方が出てきた。
「良太、どうした?」
「へい、道具の手入れをしようと思いまして」
「そうか、それは良いことに気が付いたな。昨日からばあさんとお前のこと話していたんだ。さすがに父っつあんの子だ。僅か四年で一人前になりやがったと・・・」
「しかし、おめえ昨日家に帰っていねえな。さっき父っつあんが挨拶に来たよ」
「ま、若けえから仕方ねえが、命の洗濯はほどにしなよ。それはそれとして。良太、父っつあん喜んでたぞ」
「あの頑固者の父っつあんが、涙を必死に堪えていたぞ。親を心配させるんじゃねえぞ」
普段から無口で知られている親方が、一気にしゃべり続けている。
部屋に入ると兄弟子が帰る支度をしていた。昨日どうして帰らなかったのだろう。丁度いい。兄弟子に聞いてみた。
「兄(あに)さん、命の洗濯って何するんだ?」
「馬鹿!そんなこと知るか!」
「兄さん、おいらわかんないんだ。教えてくれないか?」
「おめえ、本当に知らねえのか?」
「へえ、教えて下さい」
「・・・・・女を抱くことだよ」
「抱くって、抱き上げるんですか?」
「馬鹿!乳吸ったり色々あるんだよ。他で聞け!」
兄弟子は馬鹿々々しくなって、外に出て行った。
良太には何となくわかった気がした。乳吸ったと聞いて身体が熱くなった。
深川のおみつの家に着くと、おみつは大掃除の最中だった。直ぐ手を止めて良太のそばに来た。
「良かった。帰ってきてくれて。嫌われたのかと思った」
余程嬉しかったのか、おみつは嬉しそうに抱きついて来た。
良太は、おみつの汗に混じった甘酸っぱい女の匂いにドキッとした。乳を吸うという言葉が頭を刺激していた。
良太は自然でいられなかった。昨日までの自分と何かが変わっていた。
「良太さん、あたしこれからおいしい御馳走作るからね。だから、永大寺の縁店は一人で見に行って来て」
おみつは言いながら良太の腕から離れた。良太には柔らかいおみつの身体の感触が心地良く残った。
おみつには縁店に行かない理由が出来てほっと安心していた。
良太はおみつの用意したお茶を飲みながら、
「おみつさん、おいらも行かないよ。道具の手入れが先だ」
良太は大事そうに道具箱を抱えて井戸端へ行った。
今日は大晦日である。世の中の全てが締めくくる日である。
つづく
次回は1月31日火曜日です。
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