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    4.有るに任せよ

 「良太です」


「えぇ!ちょっと待って下さい」


 おみつは手鏡を取ると手早く髪を整え襟元を合わせ、慌てるように戸を開けた。


「おみつさん!元気でいたか?」


 おみつは声が出ない。良太に飛びつくように抱きついて泣いた。


「おみつさんどうしたんだ?何かあったのか?」


「待ってたの、ずっと待ってたの。来ないかも知れないって不安だったの」


「だって、1年も経つのよ。何にも言って来ないんだもの」


「馬鹿だな、来るって言ったじゃないか」


 おみつは良太の胸に顔をうずめて、すすり泣いている。良太はおみつが落ち着くのを待って、


「中に入っても良いかい」


「ごめんなさい。上がって下さい」


ひと泣きして落ち着くと、嬉しさが込み上げて来た。


「ねぇ、今までどこにいたの?」


「本所だよ」


「何してたの?」


「大工だよ」


「病気しなかった?」


「しねえよ」


 おみつが何を聞いても、素っ気ない返事だった。


「立派な大工になれたのね」


「ま、大工になれた」


「良かったわ。あたしも頑張って働いているの」


「おみつさん、聞いてなかったけど何の仕事してたんだった?」


「す、す、すみません。言ってなかったわね」


おみつはいきなりで慌てた。危うく、すりと言うところだった。


「居酒屋で働いているの。今日も七つ(午後四時)から行くの。でも今日はお休みする」


「休んじゃだめだよ。お店に迷惑かけてはだめだよ」


「だって帰っちゃうでしょう?」


「おいらここに待ってちゃだめかい?」


「えっ、待っててくれるの?本当に?でも遅くなるのよ」


「良いよ、何刻でも」


「遅いのよ。五つ半(午後九時)になるのよ。やっぱりお休みする」


「大丈夫だよ待ってるよ」


「本当に待っててくれるの?帰っちゃだめだからね」


「泊まって良いのか?」


 おみつは、一瞬耳を疑った。


「本当に!嬉しい!何日でもずーっと泊まって!お願い!」


「そうはいかないけど、正月は一緒に居たいな」


 良太は世の中のことが全然わかっていなかった。十三歳からの奉公で二十一歳の今日まで、女性と一緒に泊まると言うことの意味がわかっていなかった。


 一年前怪我をして泊めて貰った時のような軽い気持ちでいた。


 おみつは嬉しかった。体中が喜びに溢れた。


「あら、ごめんなさい。お茶入れて来るわね。おみかん食べてて」


 おみつは良太に食べて貰うと思うと、昼飯を作るのがこんなに楽しく嬉しいものかと思った。


  普段はお腹が満たされれば良いと思い、さらさらとお茶漬けで済ますことが多かった。


 前回、煮物が美味しいと言ってくれたので、夕飯の分までどっさり作った。二人で食べる昼食が美味しかった。良太は又も三杯お代わりした。沢山炊いて良かった。


 おみつは残りを夕飯用のおにぎりにした。まんまるのおにぎりだった。


 良太はお腹いっぱいになるとごろりと横になり、そのまま眠ってしまった。


 おみつは夕飯の用意を済ませると、良太を起こさないように気を遣いながら、そっと湯屋に行った。


 帰るとまだ寝ていた。大分仕事に疲れていたのだろう。それから小半刻程したが起きなかった。


「良太さん。起きて。あたし出かけて来るわね」


「え、どこに行くんだ?」


寝ぼけて聞く。


「仕事ですよ。夕ご飯はしっかり食べるんですよ。それからお湯屋銭はここに置いときますよ」

「うん、わかった。お店はどこにあるんだ?」


「永代寺そばの門仲と言うの。退屈だったらお店に来て」


 おみつが出かけると家の中ががらんとして気が抜けたようだった。良太はすることがなく、湯屋に行った。前回行ったところだからすぐにわかった。いい心持ちだった。しかし、家に帰るとがらんとして寂しくなった。


 お膳に、おみつの用意した夕飯があった。大きなおにぎりが三個と御鉢に山盛りの野菜の煮物。そして、たくあんが並んでいた。


 風呂に入って腹が空いたのか、大きなおにぎり三個ぺろりと食べた。


 それから大分時間が経ったと思ったが、時間が経つのがやけに遅い。今やっと宵五つ(午後八時)だ。後半刻だ。


 良太はふと思った。居酒屋の客は皆男だ。そう思うと胸が張り裂けそうになった。何度も家の前を出たり入ったりした。 


 店に行くのは心を読まれるようで嫌だった。おみつを迎えに行くとは考えもしなかった。


「ただいま!」


 おみつが元気な明るい声で帰って来た。


「急いで帰って来たのよ。あぁ疲れたー」


「はい、お水」


「ありがとう。走って来たから喉がからから」


 おみつはごくごくと美味しそうに水を飲んだ。


「美味しかった。寒いからお布団敷くわね。お布団の中でお話ししましょう」


「うん、良いよ」


「あたし、良太さんのこと色々聞きたいの」


 おみつは手際よく二組の布団をくっつけて敷いた。


「狭いから仕方ないわね」


「こっち見ないでね、着替えるから。見たらだめよ」


 良太は何だか照れくさい気持ちになった。良太も用意された浴衣に着替えた。


 二人は仰向けに並んで布団に入った。 


つづく 

次回は1月16日月曜日です