うちのひろと

♪退屈な待ち時間などに3分小説をどうぞ
面白い!気分が明るくなります。読後感が爽やかです
3分41話.5回8話.10回6話.15回7話.23回1話
時代小説9話
[がまの油売り][ひきょうもの][やぶ医者俊介]
[どんぶりめし][人に華あり][おつる][ちんこきり]
[護り屋異聞記] [片腕一刀流]
2.江戸美人
良太は嬉しくて泣いた。泣きながらふつふつと喜びが沸いて来た。父が生きていた。生きる喜びが沸いて来た。
「おみつさん、お世話になりました。改めてお礼に来ます」
良太は両手をついて礼を言う。
「家に帰るの?でもその身体じゃ、まだ無理よ」
「家を出て来んだ。帰るうちは無いよ」
「じゃ、どうするのよ。事情はわからないけど、行き先が決まるまで居て良いわよ」
おみつはこの二日間、眠り続ける良太を看病しながら、情がわいた。自分が咄嗟に財布を懐に入れなければ、この人は何でもなかったはずだ。
「すまねえ!じゃ、後一日だけ置いてもらえないだろうか?」
「だから、良いと言っているでしょう」
長屋の皆には兄が帰って来たと言ってある。何の問題も無かった。
「ありがたい。それでは後一日だけ居させてくれ」
良太は拍子抜けした。あまりに簡単に承知してくれた。
「顔を出したいところがある。その前に湯屋に行きたいのだが・・・」
良太は遠慮がてらに聞く。
「大丈夫?湯屋は近いけど・・・」
良太はふと気づくと、女物の長襦袢を着ていた。
「あら、それあたしの。男物が無いのであたしのを着て貰ったの。あなたのはそこに洗ってあるわよ」
湯へ入り、髪と身体を洗うと力が蘇るようだった。長屋へ戻るとおみつが驚いた。
きりっとした目鼻立ち。無造作ではあるが結い直した髪、その凛々しい姿は役者絵を抜け出して来たようだった。
おみつは一瞬口が利けなかった。棒立ち。直ぐに気を取り直し。
「お帰りなさい!お茶入れるわね」
おみつはお茶を入れながら少し照れていた。
「どうぞ!」
「ありがとう。おみつさん、これから本所まで行って来る。一刻ほどで帰っ来る」
「親方すみません!」
「すみませんじゃねえ!二日も黙って休みやがって!首だと言いたいところだが、さっきお父っつあんが来た」
大工の棟梁喜兵衛は、ここでキセルを火鉢の五徳へポンと叩く。
「深いわけがあるそうじゃねえか、今回はお父っつあんに免じて許してやらあ!二度とするんじゃねえぞ!明日から出て来い!」
「ありがとうございます」
と言ったまま、良太はもじもじと何か言いたそうだが言わない。喜兵衛は堪りかねて、
「どうした!なんか言いたいことがあるのか?」
「へえ、親方。住み込みにしていただけませんか?」
「どう言う風の吹き回しだ。父っつあんから預かるとき、おめえが通いにしてくれと言ったんじゃねえか?」
「へえ。すみません」
「それは俺も賛成だ。大工(でえく)は前の日の用意が大事なんだ。おめえがいつまでも下働きなのは、それも理由の一つだ!良い心がけだ。今日から住み込め」
「はい!ありがとうございます。では、用意して参ります」
「お父っつあんによろしくな」
良太は嬉しかった。親方は怒るどころか今日から来いと言う。しかも、わけも聞かない。
これまで良太は、大工の仕事が気に入らなかった。他にしたい仕事があったわけではないが、飲んだくれの父を見ていると、つまらない仕事だと思った。その父に連れて行かれたのがこの親方だった。昔は父の弟弟子だったそうだ。
「おめえのお父っつあんの右に出る大工は、江戸じゃ何人もいねえ」
親方に何度言われたことか。父を殺めたと思ったことが、改めて父を思い直した。飲んだくれの父と大工の父は違ったのだ。
深川への道すがら、頭に色んなことが思い浮かんだ。一度消えた人生を再び貰ったのだ。これまで見えなかったことが色々見えて来た。良太は大工で父を超える決意をした。
「ただいま!」
「お帰りなさい!」
どう言うわけか、おみつは綺麗に化粧をしていた。澄んだ切れ長の目に鼻筋通り、小さく赤く愛らしい受け口はぞっとするほどの美しさであった。良太はあっと思った。
つづく
次回は1月2日午後9時頃になります。
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- 22通り雨 23やきとりの串 24主婦の溜り場
- 25聞いて良かった26鈍感な男27今為すべき事
- 28ちびた鉛筆 29駄目なのは私30春が来た
- 31言わなければ32意地の張り合い33泣くな
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- 朝陽におむすび 40.41.42
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