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   28.おみつの不安

 番頭は頭を抱えた。このまま買い入れて良いのだろうか?まだ十日にしかならないのに、買い入れた着物が五十三着になる。売れた着物は二十八着。


 売り上げだけで見れば通常の五割増しの売れ行きだった。やはり引き取りは喜ばれた。


 まして、引き取り代金は、誰もが購入代金から差し引くものだと思っていた。しかし、その分は現金でその場で渡された。それを重宝したのか、帰宅してさらに持ち込む者もいた。


 顧客は予想外のことに喜び活気づいた。追加で購入する者も何人もいた。おみつの存在は大きかった。おみつがいるだけで店内がぱっーと明るくなった。


 顧客の心理が変わった。高額な商品だけに、買う側の緊張感があった。それがおみつの顔を見ただけで安心し、肩の力が抜けた。


 おみつには人を安心させる雰囲気があった。顧客は気楽に品選びをした。当然売り上げは増えた。


 番頭の不安はここにあった。売り上げは増えたが顧客の支払いは、節季払いである。


現金で支払う顧客は稀である。このまま引き取りが続けば但馬屋の金庫は持つのだろうかと番頭は心配になった。最悪の事態になれば自分も責任を問われ兼ねない。


( 節季払い=盆暮れに一括して払うこと)


 おみつはにっこり笑って見透かしたように、


「番頭さん、お客様のお持ちになったお着物はどんどん買い上げて下さい」


「旦那様はご承知ですよね?」


 あんなに意気揚々としていた番頭が弱気になっていた。


「はい、安心してお買い上げ下さい。まだまだ足りません」


 実はおみつににも少し不安が過ぎっていた。開店時には洗い張りした反物を五十反用意したかった。ところが簡単に予定数を越えてしまった。心は買い入れを止めたいところであった。


 しかし、日増しに買い入れ在庫は増えて行く。もし売れなかったら、但馬屋は大変なことになる。


 一方で洗い張りやと出来上がり日数を交渉した。五日が最短の洗い張りだった。


 依頼した三店の洗い張りやは、閑古鳥が鳴いてるに近い状態だった。


 それはこの三店に限らず、江戸の洗い張りやの現状であった。日々に仕事が入るので大変ありがたがった。


 また、但馬屋の依頼と言うこともあり、特別丁寧な洗い張りをして三店は腕を競い合った。


 おみつはその三店と支払いの取り決めをした。本来は出来上がり払いである。


 洗い張りやの支払いは、月末締めの翌月末の支払いと決めた。三店は有無も無く了承した。


当時の一般家庭では、洗い張りは日常的に行われていた。洗い張りやに出す着物は、余程の大事な着物に限られていた。


 開店は七日後の月初め一日に決めた。改装完成から二日伸ばしたのは、縁起を担いだわけではない。開店日を覚え易くするために、おみつが決めた。


 改装中の入口に大きな張り紙がしてあった。


 大工には、施主を内密にするよう口留めをした。そして店頭には、


【 一日に開店いたします 】


 と大きく黒々と達筆で書かれただけで何の店とも書かれいない。近所の者も通りがかりの者も何の店だろうと興味をそそられた。


 もともとは、いわくつきの住居である。老夫婦が亡くなってから四年の間に五人の住人が変わっている。呪われた住居だ。きっと何かが起こると噂していた。


 そんな住居が店になる。何の商売をするのだろう?どんな店主だろう?と辺りのみんなは興味津々だった。


 そしてそれは、近隣だけでなく遠方にまで噂になり、当日はみんなで見物に行こうとあちこちで話し合っていた。


                                   つづく

次回29回は7月4日火曜日です