うちのひろと

♪退屈な待ち時間などに3分小説をどうぞ
面白い!気分が明るくなります。読後感が爽やかです
3分41話.5回8話.10回6話.15回7話.23回1話
時代小説9話
[がまの油売り][ひきょうもの][やぶ医者俊介]
[どんぶりめし][人に華あり][おつる][ちんこきり]
[護り屋異聞記] [片腕一刀流]
27.おみつと番頭
おみつがお客様を入口までお送りして戻ると、番頭が待ち構えたように寄って来た。苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「若女将さん、値引きのお話は旦那様から伺っておりません。但馬屋は長年の正札販売で信用をいただいております。勝手なことをなさると困ります」
番頭はおみつを睨みつけるように見た。
「値引きはしません」
「えっ、値引きするとおっしゃったではありませんか、あのお客様は大事な長年のお客様です。嘘をおっしゃったのですか?私の立場がありません」
「いいえ、言葉の意味が違うのです」
「若女将さん!こんにゃく問答をしているわけではありません。お客様はお怒りになりますよ」
「実はお客様に喜んでいただくための工夫です。それは但馬屋の商いの基本です」
「番頭さんがお客様を大事になさってることは、帳付けを三年も手伝えば良くわかります。小商いから始まり、三年もすると大商いになっています。全ては番頭さんが誠心誠意を込めて対応なさったおかげだと思います」
「それと値引きとどう関係があるのですか?」
「番頭さんは、お客様の購入時期や好みが常に頭にあり、反物の仕入れの時点で割り振りをなさいます。この反物は誰さんの好みに合う。この反物は斬新な柄だから誰さんがきっと喜ぶとお考えですね」
「はい、それがお客様への一番の心遣いだと思っております」
「ところが、お買いになった着物は毎年どんどん増えて行くのです。ふと箪笥を見ればほぼ満杯です。新しく入れる余裕がありません。そのための箪笥を増やすには限度があります」
「なるほど、持ち物の数や箪笥のことを考えると買う気を削がれてしまいますね」
さすが切れ者の番頭だ、おみつが何を言いたいかを悟った。
「着なくなった着物でも思い出があったりします。捨てるわけにいきません。ましてや古着屋に持って行くことは体裁があり許さないでしょう。仮に持って行っても二足三文にしかなりません。今度は気持ちが許さないでしょう」
「考えもしませんでした。売る事だけを考えていました。それでどうなさるのですか」
番頭の顔が穏やかになっていた。そしておみつの次の言葉を待っていた。
「番頭さん、さすがですね。不要になった着物を引き取ろうと思います」
「あっ、値引きと言うのは引き取るときの代金と言うことですね。しかし、それではその分だけ利益が少なくなってしまいます」
「そうならないようにするのです」
「ただで引き取ると言うのですか?中にはそれでも喜ばれるお客さまはあると思いますが、いかがなものでしょう?」
「いいえ、全てに代金をお支払いいたします」
「なるほど、売る反物に初めからその代金分を上乗せするのですね」
「いえ、そんなことをしたら、いずれ但馬屋の反物は他より高いと噂されるようになるでしょう」
「お聞きしたいですね、どうなさるのですか?」
「引き取りではありません。仕入れです。だから値引きでなく代金のお支払いです。受け取る側は受け取った分だけ安くなったと思いますので値引きと考えて貰っても良いと思ってます」
「仕入れとおっしゃいましたが、引き取った着物を売ると言うことですか?但馬屋で古着をるわけにはいきません」
「その通りです。別にお店を出します。ここから一町先の並びに開店します」
「えーっあの改築してる住居ですか?今噂になっています。いわくつきの住居でしたからね。誰が住むのだろうと思ってましたが、若女将さんのお考えでしたか」
「古着は売りません。洗い張りをした反物を売ります。但馬屋にご来店いただくお客様は、世間から言えば裕福な方ばかりです。もっと気軽にお召しいただける着物があっていいかと思います」
「洗い張りをすれば、仕立てた時の筋が消えます。新たに仕立てることが出来ます。もちろん寸法も変えられます。裏地は当然新しく付けるので仕立て上がったときは新品とはいきませんが、近いものになります。その専門店を開きます」
今、江戸では、大阪での成功を真似して、洗い張り屋が出来ているがまだまだ少ない。まして、洗い張りした反物を売ると言う発想は大阪にもどこにも無かった。
番頭は唖然として、若女将の次の言葉を待っていた。
「仕入れは洗い張りしたときの状態を考えて値を付けます。基本的には購入額の五分の一です」
「若女将さん、その金額は喜ばれます。古着や屋へ持って行けば二足三文です。しかし、それを洗い張りした反物にしてどのくらいでお売りになるつもりですか?」
「大体、新品の三分の一ぐらいの価格で売るつもりです」
番頭の若女将を見る顔に尊敬のまなざしが芽生えていた。発想が違う。そして、緻密に計算がされている。何を質問しても明確な答えが返って来る。
「よくわかりました。江戸で初めての商いになりますね。何だかわくわくしてきました。どうぞ、私くしをいかようにでもお使い下さい」
番頭は興奮気味におみつに言った。
つづく
次回は6月27日火曜日に掲載いたします。
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