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       26.新しい商い

 喜兵衛は聞くまでの事ではないと感情的になっていた。しかし、おみつの冷静な態度に冷や水を浴びたような気持になった。そして、自分に無い何かをおみつに感じた。


「すまない、どうかしていた。話してごらん」


「引き取ると言うのは仕入れと思っています。手軽に買える値段で洗い張りした反物として売れば良いと思います」


 喜兵衛は、うん?と興味を持った。


「洗い張りした反物とは?」


「はい、八枚にほどき元の反物のように繋ぎ合わせて、洗い張りしたそのままの反物です」


 喜兵衛は違った答えを期待したが、あまりにも基本の答えだった。おみつもそれを察したのか、


「買った人は自分で仕立てるも、仕立てを頼むも自由です。洗い張りした反物ですから、仕立てたらそのまま安心して着れます」


 喜兵衛はそのまま着れるとの物言いにピクリとした。


「売れると思うか?」


「値段の付け方次第です。反物を買って貰うために、引き取るわけですから、売り損にならない程度の値段を付ければ良いかと思います」


「しかし、店で売るわけにはいかない」


「当然だと思います。別に店を出すしかないと思います」


「じゃ、誰がやる?」


「私がやります」


 おみつは始めからそのつもりでいたようだ。


 喜兵衛は、まさかおみつが店をやりますと言うとは露ほども思っていなかった。


 喜兵衛の決断は早い。室町の通りは商いの店ばかりではない。住居もある。そこから店舗に改装出来る住居を見つけた。


 但馬屋から一町先の並びにある。隣が大家で乾物屋である。


 四年前、老夫婦が亡くなってから住人が五人も変わっている。いわくつきの住居である。改装に半月程かかると言う。


 おみつは呉服商いに慣れるようにと自ら店頭に出た。当時、呉服屋の店頭には女性はいなかった。おみつが最初かも知れない。


 戸惑ったのはおみつより、番頭や手代の方だった。”若女将さん”と言葉は丁寧だが軽く見ていた。


 不思議なことにおみつが店頭にいるだけで店内が華やかに明るくなった。女性だからと言うわけではない。これが華と言うものだろう。


 三日目になると来客は自然に、


「若女将さんを呼んで下さい」


 とお願いする。そして、最後の品定めはおみつに相談した。


「お迷いですね、私も迷います。どちらも良くお似合いになりますから。でも、旦那様はどちらをお召しになった時お喜びになると思いますか?」


「これだと思います。この色合いは旦那様のお好きな色合いです」


「それでございましたら、これに致しましょう。旦那様は奥様のお召しになったお姿に、お喜びになられますよ」


「そうでした。そのことを忘れていました。ありがとうございます。これをいただきます」


 客は嬉しそうに照れ気味に言った。


「奥様、今度お出でになるときは、お召しにならなくなった着物がございましたら、お持ちください。多少ですがお値引きさせていただきます」


「えっ、本当ですか?助かります。引き取っていただくだけでもありがたいのです。収納場所に困っています。捨てるわけにはいきませんし、古着屋には世間の目がありますから、持って行くわけにはいきません。何枚までよろしいですか?」


「何枚でもどうぞ!」


 おみつはにっこり笑って言う。


「実は箪笥を増やすわけにはいきませんので、新しい着物を買うたびに困っていたのです。よろしくお願いいたします」


「今回、お買い求めいただきましたので、その分として都合のよろしい時にお持ちください。多少ですがお値引きさせていただきます」


 そばで聞いていた番頭が驚いて、とんでもないと言う顔をしていた。


                                つづく