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      24.太一郎の誕生

 おみつの横にすやすやと赤子が寝ていた。佳代と良太の母が来ていた。産婆は帰った後だった。


 男では三右衛門が一番乗りだった。落ち着いた風をしていたが、二人の母親の挨拶の声は殆ど聞こえていなかった。顔は嬉しさに満ちていた。


 赤子とはよく言ったもので、まるまるとした赤い顔でどことなく良太に似ていた。


「おみつ、大丈夫か?よく頑張ったね」


 そばにいるのに、ことさら大きな声だった。赤子が驚いて泣き出した。佳代が抱き上げてあやした。


「あっ、ごめん!ごめん!起こしてしまったようだ」


「先生ありがとうございます。名前は決めていただきましたか?」


「ほら!これだ。読んでごらん」


 三右衛門はおみつの前に半紙を広げた。そこには、太一郎と黒々とした太い墨字で書かれていた。


 三右衛門は良太とおみつに名前を依頼されていた。生まれて来る子は男か女かわからず両方考えてあった。男は太一郎、女は美津乃であった。


 佳代と良太の母は覗き込むようにして書かれた名を読んだ。


三人は声を合わせるように


「わー、良い名前!」


 おみつと母二人は早速、


「太一郎!太一郎!太一郎!」


 と何度も声に出して呼びかける。


 良太は棟梁が帰れと言うのに、その日の仕事が終わるまで帰らなかった。しかし、終わると道具箱を肩に早飛脚のように走って帰った。


 草履を撥ねるように脱ぎ捨て、太一郎に駆け寄った。


「あーっ可愛いな!おいらを見てるよ。抱いてだめ?」


「良太、おみつさんにねぎらいの言葉が先でしょ。大変だったのよ」


 良太の母親が諭す。


「おみつ、ごめん。大丈夫か?」


「大丈夫です。お母さんたちが全部手伝ってくれたの、私幸せです」


 佳代が太一郎をそっと抱いて良太に手渡す。


「太一郎!お父さんですよ!」


 良太は恐る恐る受け取った。軽かった。何も抱いていないように軽かった。


「かわいいな!太一郎!お父さんだよ。あっ、笑った!」


「本当に笑ったの?みんなね、良太さんに似てるって。あたしに似てるって誰も言わないんですよ」


「可愛いからね」


「どう言う意味ですか?」


 良太は嬉しそうに、


「おみつ、良い名前だね。先生が付けてくれたのか?」


「はい、先程お祝いに来てくれました。ほら、あそこ!」


 早速壁に貼り付けてある。


「おいらの字が使ってある。ますます気に入った。良い名前だ!」


 ふと、良太はおいしい匂いの漂いに気付いた。母二人が御赤飯とお煮しめを作っていた。


「お腹空いたな!」


「今、お出ししますね」


 佳代が言うと、


「駄目ですよ!ご近所にお赤飯届けて来なさい!それが先です」


 良太の母親が言う。竹の皮に包まれたお赤飯が二十包み程作られていた。配り終わると七堤包み残った。


「そうだ!先生のところ届けて来る。名前のお礼も言って来る」


「では、これもお願いできますか?お煮しめです」


 佳代が竹の皮に急ぎ詰め始めた。良太は二包みを持って出掛けた。


 良太が三右衛門のとことから帰ると、喜兵衛と良太の父がお祝いに訪ねて来ていた。


 四畳半の部屋に六人は狭かった。ましておみつの寝床は敷いてある。母二人は台所の縁に座っていた。


 喜兵衛から提案があった。


「良太さん、離れが一つ空いてます。三年前、書斎を兼ねた別棟のつもりで造ったのですが使わないままで物騒です。になりますが誰も住まなくて物騒なのです。おみつと一緒に住んでもらえれば助かるのですが・・・」


 良太がそれは出来ませんと答えようとする矢先に、良太の母が、それは良いですね。子供の為にはそれが一番です。佳代も、


「お願い出来ませんか?お願いいたします」


 良太が、いやそれはと言おうとすると、良太の父は喜兵衛の心を酌み、


「良太、子供の為にはもちろんだが、但馬屋さんもお困りだ。そうさせて貰ったらどうだ。一石二鳥とはこのことだ」


 良太はおみつに向き直り、


「おみつ、どうする?」


「良太さんにお任せします」


 と言われては否とは言えなかった。少し職場が遠くなるが大したことではなかった。


「わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」


「ありがとうございます。それでは早い方が良いでしょう。三日後はいかがでしょうか?善は急げと申します」


「そうです。決まれば早い方が良いです。ただおみつさんの身体が落ち着くまでは・・・・・」


 良太の母親が心配して言う。


「大丈夫です。今は、ゆっくり駕籠と言うのがあります。全てはお任せ下さい」


 喜兵衛は親として、自分の至らぬことからおみつに苦労をかけたことを、心から悔いていた。


 今更ではあるが出来る事は何でもしてあげたいと思っていた。今なら何でもしてあげられる。


 ただ、良太の立場を考えて出過ぎの無いようにと考えていた。


 三日後、良太一家の室町での生活が始まった。


                               つづく

第25回は6月6日火曜日です。