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         22.元締めの決意

 今朝は涼しい日だった。そして、良太の十日に一度の休みの日である。


 爽やかな朝風が部屋に入って来る。二人はいつものように向き合って朝飯を食べていた。


「おみつ、今日はお母さんが来ると言っていたね。涼しい日で良かった」


「はい、良太さんありがとうございます」


「そう、改まって言うなよ!おいらにもお母さんだよ」


「でも、嬉しいの。良太さんありがとう!」


「鰻おいしかったね!こんなに精がつくのなら子供のためにも良いはずだね」


 おみつは赤くなった。


「どうしたんだ?そうか、久しぶりだったからね」


「もう!知らない!」


 拗ねたように言いながら、おみつは嬉しそうな顔をして、お茶の支度に立ち上がった。


 その時入口で訪う声がした。


「おはよう!」


 その声に良太は聞き覚えがあった。


「はい!」


 とおみつは急ぎ入口へ行き、引き戸を開けた。


「入っても良いかな?」


「どうぞ、お上がり下さい」


 元締めだった。良太は緊張した。急ぎ座布団を用意した。


 二人は緊張気味に元締めの前に座り、挨拶をした。


「ご無沙汰を致しております」


「いやいや、元気でいたかな?」


「はい、おかげさまで元気でやっております。先日は大変なお祝いをいただきましてありがとうございました」


 良太は緊張気味に言う。元締めはそれをほぐすかのように、にこやかに、


「いやいや、みんなの気持ちでな。みんな大喜びしてね、自分のことのように喜んでいる。その事で話したいことがあるが、その前に室町の話をしておこう」


「丹波屋は確かな営みをしているようだ。幸いにして二人に会うことなく様子を見させてもらった。奉公人の躾や動きを見ると良くわかる」


 ここで元締めは持参の風呂敷包みを開いた。反物が二反入っていた。


「これは丹波屋の浴衣の反物だ。ここらではあまり見かけない柄だ。なかなかの品揃えである。これはおみつに似合いそうなので買って来た。使ってくれるかな?」


 元締めは一反をおみつに渡す。


「ありがとうございます。綺麗な柄ですね。遠慮なくいただきます」


 おみつは嬉しそうに、早速胸に当ててみる。


「うわーっ、綺麗な柄!私に似合うかしら?」


「似合う!似合う!良く似合う!おみつ、きれいだ!」


 良太が思わず口に出す。


「良太、これは良太のだ。気に入るかな?」


 元締めはもう一反を良太に渡す。


「えっ、私のもですか?」


 おみつがそれを手に取り良太の胸に当てる。


「良太さん素敵よ。男前が上がるわ」


「本当?うれしいな!元締め様ありがとうございます」


「良太、良いねー。良く似合うよ。私が選んだだけある!もちろん、おみつのもね」


 元締めはにっこり笑いながら、自分で選んだにもかかわらず悦にいっている。そして、言葉を続けた。


「着物だけではない。夫婦して近隣の評判が大変良い。安心なさい。心配することは何もない」


「実は昨日、二人でまた訪ねて来ました。私は誤解をしていたようです。元締めに是非お会いしたいと申しておりましたが、いかがいたしましょうか?」


 おみつは、父母への気持ちを抑え気味に話した。


「そうか、誤解は解けたか?おおよその見当はついている。あの時のご婦人の顔は忘れることは出来ない。他人に言えない深い事情があったと思う。しかし、みんな過ぎたことだ。これからは仲良く一緒に生きて行くことだ」


 元締めは言いながら、秋風が吹き抜けていくように寂しくなった。しかし、それはおくびにも出さなかった。


 おみつにはそれがわかった。


「元締め、これからは子供も一緒にお世話になります。これからもよろしくお願いいたします」


「うん、その話だが、わしは廃業することに決めた。皆にも昨夜話

をした」


「これから、どうなさるのですか?」


 良太が心配そうに聞いた。


「わしは、寺小屋をやるつもりだ。これからは人のために生きようと思う。道端に咲く小さな花で良い。道行く人の目を少しでも和ますことができればと思っている」


 元締めはここで一呼吸おいて話を続けた。


「最初は罪滅ぼしのつもりで考えた。しかし、それは偽善だ。寺小屋に通う人の為にならない。もっと純粋なものでなければならない」


「寺小屋は、無料で通ってもらう。それは子供に限らない。向学心があれば大人でも老人でも誰でも構わない。わしは食うには困らない。家の周りはわしが耕した畑ばかりだ。食うには余りある」


 決意に満ちていた。


「私たちに何かお手伝いすることはありませんか?」


 良太が神妙な顔をして言う。


「うん!ある」


「何でしょうか?」


「向学心のある人を紹介して欲しい。子供でも大人でも、男女を問わず誰でも良い」


 良太はおみつに小声で聞いた。


『向学心てなに?』


『学びたいと言う人』


良太は急に大きな声で、


「向学心のある人大丈夫です。探して来ます」


「よろしく頼むよ」


「元締め様、失礼なことお聞きしていいでしょうか?」


「何でも聞きなさい」


「これからは、何とお呼びしたら良いでしょうか?元締め様ではなくなるのだし・・・」


「良太さん、決まってるでしょう。先生ですよ」


「ははは、わしの名は偶然だが、おみつと同じ三右衛門だ。どちらでも良い」


「三右衛門様は言いにくいですね。先生でよろしいですか?」


「ははははは、好きにしなさい!」


 元締めは大きく笑った。


 その時入口で訪う声がした。


「ごめん下さい!」


 佳代の声であった。


 良太とおみつは顔を見合わせた。


                               つづく

次回23回は5月23日火曜日です。