Shopping Cart
Your Cart is Empty
Quantity:
Subtotal
Taxes
Shipping
Total
There was an error with PayPalClick here to try again
CelebrateThank you for your business!You should be receiving an order confirmation from Paypal shortly.Exit Shopping Cart

    19、夏風邪

  佳代はこの日から臥せってしまった。運ばれた食事も殆ど口にしない。


一条の光は佳代の悔いをも照らした。おみつを置き去りにしてきたことを思い出すと、胸は張り裂けぬばかりであった。

 喜兵衛の心はおみつに会えた喜びに満ちていた。しかし、親としての不甲斐なさに慙愧の念が堪えなかった。


 次の日、再び訪れるつもりだったが、佳代は臥せったままだった。喜兵衛はその様子を見て日を改めることにした。


 喜兵衛は佳代にもすまないと思った。自分が強く生きていたら一緒に死のうとは言わなかったはずだ。


佳代の苦しみは自分が作ったのだ。そして、おみつを不幸にしてまった。それを思うと身を切られるように辛かった。


 佳代の前では、出来るだけ明るく振舞った。おみつのことは佳代も同じ気持ちだった。その気持ちがわかるだけに辛かった。


「おまえさん、明日は必ずおみつのところへ行きましょうね」


 三日の間、佳代は毎日喜兵衛に繰り返し言った。四日目にしてやっと床離れが出来た。おみつに会いたい一心が気力を奮い立たせたのだろう。


 おみつに会いたい。そして謝りたい。母として絶対してはならないことをした。理由はあった。おみつに生きてもらうにはそれしか他に方法がなかったのである。しかし、今となってはそれはどうでも良い事であった。


 おみつは二人が長屋に訪ねて来てから、心が落ち着かなかった。思いが交錯した。


 自分の取った態度に後悔していた。思いあぐねて、元締めを訪ねた。二人が来てから三日目だった。


 元締めはおみつを見るなり驚いた。直ぐにお祝いの言葉を述べた。


「おめでとう!子供が出来たか。良かったなー!」


「はい!ありがとうございます」


「予定はいつだ!」


 目を細めた元締めは、おみつのお腹を見ながら言う、


「十月の予定です。もう時々動きます」


「そうか、お腹で子供が動くか!子供々々と思っていたがいよいよ母親じゃな」


「はい!」


 おみつが嬉しそうに頷く、


「十月と言えばもう直ぐじゃないか。くれぐれも身体を気を付けなさいよ。それとね、おみつ!おまえは食が細いからしっかり食べなさい。二人分だよ。わかったね」


「はい!わかりました」


 元締めは父であり母であった。


「今日はその知らせにきたのか、わざわざありがとう」


「はい、それもありますがご相談に参りました」


「おー、そうか何でも相談に乗るよ。さ、入んなさい」


 元締めが自らお茶を淹れてくれた。


 おみつが私がやりますと言った時には、もう湯呑に注がれていた。元締めは何でも手際が良かった。旨いお茶だった。


 以前はおみつが元締めにお茶を出していた。今日は逆である。


「さ、話してごらん!」


 元締めはおみつに事の次第を聞いて驚いた。


「突然やって来たのか?それは妙なことだな」


「はい、でも女の人に見覚えがありました」


 おみつはあえて母親とは言わなかった。


「六つの時のこととは言え、母親だからね」


「二人が帰った後に、元締めに頂いたお守りを開けて見ました。男が名乗った通り、喜兵衛と書いてありました。そして佳代と」


「そうか、それはでは間違いないだろう」


「でも、急になぜでしょう?」


「おみつ、おまえを探していたのだろうね。しかし、なぜ今頃、ちょっと気になる。明日、行ってみよう。室町の呉服屋・・・・・」


「丹波屋と言いました。よろしくお願いします」


 室町で道行く人に丹波屋はどこですかと聞くと直ぐに教えてくれた。大店ではないが名の知れた店であった。


 元締めは楽隠居風のいでたちで店に入って行った。昔は武士である。堂々たる雰囲気に番頭が挨拶にきた。


 孫娘に浴衣をと尋ねると、反物を十本ほどの抱えて来た。そして、その勧められた中から一反選び、さらに男物を持って来させた。それも勧められた中から一反選んだ。合わせて一疋(二本)を購入しさりげなく、


「おかみさんは御元気かな?」


 と聞くと、


「存じ寄りのお方でしたか、大変失礼いたしました」


 と恐縮して、


「三日程前から夏風邪を召されたのか、今、臥せってらっしゃいます。旦那様をお呼びいたしましょうか?」


 と言う。


「それは御気の毒に、お大事なされるようにお伝えください」


「失礼ですが、お名前をお聞きかせいただきますか?」


「三右衛門と言います。よろしくお伝えください」


 元締めは店を出た。


                                 つづく

次回は5月2日火曜日です。