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      15、偶然

  おみつは気が遠くなったが、二人に支えられて正気に戻った。


「すみません、目まいがいたしました。ありがとうございました」


「大丈夫ですか?奥で少しお休みになりませんか?」


 心配げに女将はおみつの顔をまじまじと見つめた。そして気が付いた。似ている。毎月来るご夫婦に。


「もしや・・・おみつさんではありませんか?」


 茶店の女将は訝しげに聞く、


「いえ、違います」


 おみつは、はっきり答えた。心には何か確信に似たものを感じていたが、素直にそうですと言えなかった。


「おみつさんて方ご存じではありませんか?」


 女将は続けて聞いてきた。


「いえ、知りません」


「そうですよね、そんな偶然があるはずないですよね」


 女将と娘は顔を見合わせた。


「お団子お持ちいたします。ゆっくり休んで行って下さい」


 娘の方は気を利かすように言って、店の奥へ入って行った。


 女将はその場を繕うように、


「今日は良いお天気ですね。お買い物ですか?」


「はい、古着を探しに来ました」


「古着ですか?」


「おむつには古着が良いと聞きまして」


「そうですよ。赤ちゃんの柔らかな肌には一番ですよ。赤ちゃんがいらっしゃるのですか?」


「はい、これからです」


「あら!おめでとうございます。予定はいつ頃ですか?」


「秋です。十月になると思います」


「それは楽しみですね。どちらからお出でになられたのですか?」


「深川です」


「あら!深川ですか。私は良く行くんですよ。永代寺には月の初めは必ずお参りします」


「偶然ですね。私はその永大寺の近くに住んでいます」


「良い所にお住まいですね」


「そうなんです。静かな良い所ですよ」


 女将はさりげなく住まいを聞き出してしまった。


 茶店は朝五つからの一刻、午後は八つ半を過ぎたころから、縁店や演し物帰りのお客で混む。おみつが来たのは朝の客が丁度引いた四つ刻だった。


(朝五つ=八時、四つ=十時、昼八つ=午後三時、一刻=二時間)


 おみつは、帰りに茶店には寄らなかった。居酒屋門仲の勤めがあるからだ。来月六月からは代わりの人が来る。それまでは勤めるつもりだった。


 良太はおみつの身体を心配して、直ぐに辞めてくれと言ったが、お世話になった居酒屋である。代わりが来るまで辞めるわけにはいかなかった。


 六月の始め朝五つ。茶店にその夫婦が来た。待ち兼ねていた女将は直ぐに駆け寄った。客が立て込んでいるので席を案内し、


「見つかりました。少しお待ち下さい」


 それを聞いた妻の方は座ったが落ち着かない。女将の行く先々を目で追うだけでなく、じっと座っていられないのか直ぐに立ち上がる。


 そばで主人も座りなさいと言っているようだが、座ると直ぐに立ち上がる。居ても立っても居られないとはこのことを言うのだろう。


 余程のわけがあるのだろうと女将は思ったが、娘と二人だけの切り盛りである。半刻程してようやく二人の前に座った。


 女将は先日の事と次第を話した。


「奥様に良く似ていらっしゃる方でした。姿もそっくりでした」


「おいくつぐらいの人でしたか?」


 妻の方は聞き返す、


「そうですね、年の頃は、二十歳を少し出たくらい。二十二、三歳くらいでしょうか?」


「おまえさん!おみつに違いありません」


 主人の方は妻の言葉を頷き聞いて、


「お住まいは深川と言っていましたか?」


 確かめるように聞き直す。


「はい、永代寺の近くとか・・・・・」


「ありがとうございました。良く知らせて下さいました。これから深川に行ってみます」


 それからふた月余り、夫婦は永代寺近くの長屋を訪ね歩いた。大店の主人風だから人に頼めば良いと思うが、なぜか二人は自分たちで訪ね歩いた。


 実は室町で呉服屋を営んでいた。二人一緒に店を留守には出来ない。それでも十日に一度は深川を訪ねた。


 永代寺近くと聞いてはいたが、長屋が数多く途方に暮れていた。


 この日も暮れ近くになり、藁をもつかむつもりで、永代寺に参った。その帰り、歩き疲れてひと休みのつもりで、門前並びの蕎麦屋に立ち寄った。


 注文取りに来た女将に何気なく聞いた、


「この辺で、おみつさんと言う人聞いたことありませんか?」


 とその妻は聞いた、


「おみつさんですか?門仲のおみつさんかしら?」


「えっ!おみつさんいらっしゃいます?」


 妻は驚いて聞き返す。


「すぐそこの、居酒屋門仲に勤めていますよ」


                                つづく

次回は4月4日火曜日です。