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               14.胸騒ぎ

 お披露目を終えてひと月になる。毎日毎日が楽しくて嬉しくて幸せである。時の経つのが早すぎて、もう直ぐ夏を迎える。


 良太は明け六つ半(午前七時)になると長屋を出る。肩に大工道具、腰におにぎり弁当。


 夕七つ半(午後5時)には仕事を終え長屋に着く。


 帰ると湯屋に行き、用意された夕食を食べ、ごろりと横になりおみつの帰りを待つ。


 おみつは良太を送り出した後、掃除洗濯、買い物、湯屋。


 夕七つ(午後四時)に家を出て居酒屋門仲へ、宵5つ半(午後九時)過ぎに長屋に帰り着く。


 決まりきったような毎日だが、飽きることのない、楽しい毎日である。二人でいられる嬉しさに心は満ちていた。


 お腹の子も五か月を過ぎて、順調に育っているようだ。少しふくらみがわかるようになってきた。


 今日は、おみつは両国へ古着を買いに出かけた。縫い直して大きめの浴衣を作るつもりだった。一度しか着ない浴衣だから新しい反物はいらないと思った。


 おむつも使い古した浴衣が赤ちゃんの肌に馴染むと居酒屋門仲のおかみから聞いた。


 深川から両国へ行く道々、生まれて来る赤ちゃんのことを考えるだけで楽しかった。男の子かな?女の子かな?


 良太さんは男の子が良いと言ってたけど、私は女の子が良いな。


 名前はなんて付けようかしらなどと、とりとめなかった。そんなことを考えていたら、いつの間にか両国橋が見えて来た。


 両国橋を渡ると直ぐのところに茶店があった。ふっと元締めの言葉が思い浮かんだ。おみつはそれを思い出すと、なぜか心がどきどきした。(9、隠れ家の項)


 それでも店前のござ敷縁台に座った。若い女が出て来て、


「団子になさいますか?」


「はい、二本いただきます」


 若い女は、なぜかまじまじとおみつを見つめる。


「え、どうかしましたか?」


 おみつは思わず聞いた。


「いえ、先程いらした方のご姉妹ですか?」


「先程と言いますと?」


「その方は今日はお一人で、暫くお座りになっていました。誰かお待ちなのかなと思っていました。お帰りの直ぐ後に、あなたがお出でになりましたから、ひょっとして待ち合わせの方かと思いました。違ったようですね。それにしてもよく似ていらっしゃいます」


 おみつは何か予感がした。


「その方は良くいらっしゃいますか?」


「はい、一年程前から、月に一度はお越しになります。いつもは、ご主人様とご一緒です。ここに半刻ほど黙ってお座りになっていらっしゃいます」


 おみつはなぜか胸が騒いだ。


「どんな方でいらっしゃいますか?」


「そうですね、大店の旦那様奥様と言う感じですか・・・母が詳しいので呼んで来ましょうか?」


「少しお聞きしたいことがありますので、お呼びいただけませんか?」


 奥から母親が出て来た。店の女将である。


「私も良く知らないのですが、一六年程前のことらしいです。私がこの店を引き継いだのが七年前ですからわかりませんと言いますと、残念そうにしていらっしゃいました」


「そして、妙なことをおっしゃるのです。おみつと名乗る方が来たことはありませんかとおっしゃいます。いいえと申しますと、もし来られたらお住まいをお聞きして下さいと、先にお礼を頂きました。申し訳ないので、気にはしているのですが・・・・・」


 と女将は言葉を飲んで、


「それから一年になりますが、なかなか・・・・・」


と首を振る


 おみつは身体から力が抜けていくのがわかった。


 茶店の二人は咄嗟におみつの身体を支えた。


                                 つづく

次回は3月28日火曜日です。