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                13.お披露目

 新緑の目に優しく、陽はぽかぽかと暖かく。空は高く大きく広がり、時はゆっくりと流れ世間は夢と希望に満ちていた。


 今日は四月十五日。良太とおみつのお披露目である。ここにも夢と希望が満ち溢れていた。


「本所で茶室を造らせたら右に出る者はいないと言われている。この江戸でもざらにはいない。その源作さんの息子が良太です。実は源作さんは私の兄弟子です」


 ここで出席した良太の兄弟子たちが、えーっとどよめいた。良太が源作の息子であると言うこと。親方が源作の弟弟子であったと言うこと。そして、それが良太の仕事ぶりあったと誰もが納得した。


仲人で棟梁の親方は続けた。


「見ての通り、この場に場違いなくらい綺麗なお嫁さんは、おみつさんと言って深川の人です。早くにご両親を無くされ、ご苦労されたようです。料理屋で働いています。馴れ初めは、深川の夜道でぶつかったのが縁です。大当たりでした」


 一同、どーっと笑う。


「そして、大当たりが続きまして、今、おみつさんのお腹にはお子が宿っております」


 今度は一同、おーっとどよめいて、大きな拍手になった。


「では、大いに飲んで祝って下さい」


 これを機に一同酒宴となった。


 親方は心から嬉しかった。良太とおみつが我が子のように思えた。親方夫妻に子は授からなかった。二人の前に行くと、


「良太!良かったな!これで誰もが認めた夫婦だ」


「はい!ありがとうございます。御恩は一生忘れません!」


「親方様ありがとうございます」


 おみつも両手をついて挨拶する。


「おみつさん、身体を大事にして丈夫な赤ちゃんを産むんだよ。生まれたら家にも連れておいでよ。ばあさんも待ってるからね」


 隣でおかみさんも、


「必ずですよ。待っていますよ」


 二人は一人一人に挨拶に回った。最後は良太の両親だった。


おみつが挨拶しようとする手を母親は両手でつかみ、


「おみつさん!ありがとう!良太が立ち直ったのはおみつさんのお陰です」


 おみつの手をぎゅっと握りしめた。


「お母さん私もなんです。良太さんのお陰です。生きる張りが見つかりました」


 おみつは自然にお母さんと口に出た。


「おみつさんこれからもよろしくお願いしますね」


 今度は横から父親が、


「おみつさんありがとう。本当にありがとう。良太をありがとう」


「お父さん、私こそお礼申し上げます。ふつつかな嫁ですがどうぞよろしくお願いいたします」


 頑固でにこりともしなかった男が顔中しわくちゃにして、


「ありがとう!ありがとう!」


 繰り返しありがとうと言い、良太に向かって、


「大事にしろよ!おみつさん泣かせたら承知しないぞ!」


 良太は父親の気持ちが良くわかった。嬉しくて涙が込み上げて来た。立派な大工になる決意を新たにした。


 お披露目は総勢十四名、良太におみつ、仲人の棟梁夫妻、良太の両親、長屋の大家、七人の兄弟子である。


 育ての親である元締めは出席しなかった。


 おみつが元締めを訪ねたのは、良太の両親に挨拶に行った次の日である。


「おみつ、おめでとう。改めてお祝いを言わせてもらう。わしは出ない。それがお前達のためだ」


「どうしてですか?」


「それをわしに言わせるのか」


「はい、私にはわかりません」


「お前も知っての通り、わしの家業は長い。配下も二十人を超える。いつ何があるかわからない。わしたちとの繋がりは切って置くに限る」


 ここで元締めはにっこり笑い、


「おみつ、お前はわしの子供だと思っている。そして、みんなもそう思っている。お前が小さい頃からみんなで育てた。お前の幸せをみんなで祈ってる」


「ありがとうございます」


 おみつはわしの子だと言われ、嬉しくて目頭に熱いものがこみ上げてきた。


「しかし、それは今日この日限りだ。どこかで顔を合わすことがあっても知らぬ他人だ。いいな!みんなとも同じだ。これは元締めとして最後の命令だ」


 元締めは急に厳しい顔になって言う。そして奥から布袋を提げてきた。


「おみつ、これはわしたちのお祝いだ。ざっと七十両ほど入っている。半端な数だが、これはみんなが持ち寄った金だ。みんな、普段は正業を持っている。その生業で得た金だけだ。安心して使ってくれ」


 おみつが何度も返すので元締めはその手を押さえて、静かににこやかに言った。


「おみつ、みんなの気持ちを無にしてはいけないよ」


 おみつは元締めの家を出ると、堪えていた涙があふれ出て止まらなかった。


                                つづく


次回は3月21日火曜日に掲載します。


閑話


 江戸時代初期から中期頃まで、男性の人口は女性の約2倍であった。江戸末期に向かって徐々に解消されて行ったが、男性から見ると結婚することはなかなか大変だったようだ。


 家と家との結びつきによる結婚が多くなった理由の一つである。しかし男女の仲と言うのは不思議なもので、料理屋などの出会いによる恋愛結婚がかなり多くあったと言う。