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        不妊の幸せ 4.

 「ごめんね。辛い思いをさせていたんだね」


 美紀夫は立ち上がると理恵子を後ろから抱きしめた。


「僕は君が好きで結婚したんだ。子供を創るために結婚したんじゃない。子供が出来ないと幸せになれないのか?」


 美紀夫は抱きしめた手を外し、隣の椅子に座ると真剣な顔をして話を続けた。


「それは違うよ。僕の幸せは君といることだ。子供は関係ない。しかし、子供の話は必要だった」


「避妊が必要だったからだ。愛し合えば妊娠する。当然、僕と君だけの素晴らしい生活は終わる。だから避妊した」


「愛し合えば心が身体を引き寄せる。心は見えないから身体が証明するわけだ。それが妊娠だ。ここに矛盾がある」


「人間の摂理。いや、神の摂理と言っても良い。言い換えれば人間の本能だ。愛の交合は究極の快感を得られる」


「快感は子孫を繋ぐための神の摂理だ。妊娠はその代償としてある。ところが神の摂理は僕達にはない」


「愛の快感だけを許されている。僕らは選ばれた人間だと思う。これが妊娠しない理由だ」


「だから子供は出来ない。僕と理恵子だけの愛が許されている。こんな素晴らしいことない」


 美紀夫はこれまで神の話などしたことがない。理恵子は戸惑った。


「子供が出来なくても良いって言うことですか?」


「そうだよ、僕と君との素晴らしい人生にしよう。他に何もいらない……ひょっとして不満か?」


「いいえ、満足しています。今最高に幸せです。美紀夫さんと一緒にいられることが一番の幸せです」


「ありがとう。そう言ってくれると嬉しい。僕も理恵子と一緒にいるだけで幸せだ。子供は必要ない」


 理恵子はそうはっきり言われると、寂しさと複雑な気持ちになった。少し間があって、


「お父さんもお母さんも、孫が出来るのを楽しみにしていらっしゃいます」


「それは父さん母さんの勝手だろう。僕は理恵子が全てだ。理恵子と二人で幸せに生きて行くんだ」


「でも、そんなことが許されるのでしょうか?」


「じゃ、聞くが、父さん母さんは孫の顔を見るために結婚したのか?」


「意味が分かりません」


「愛し合って結婚したのだろう。結婚した時、子供の事は別として、孫の事などこれっぽっちも考えたことはないと思う」


「それはそうでしょう。でも、極端過ぎる話よ」


「理恵子、僕らはまだ30歳半ばだ。人生はこれからだ。君と二人で楽しく生きる。夜遊びだって旅行だって何だって出来る」


「そうですけど、それで良いのかしら…」


「しかしね、もし僕たちに子供が出来たら、君は子供にかかりっきりになるだろうね。僕のことなど構わなくなる」


「そんなことはありません。私は美紀夫さんが全てです」


「そう言うのは今だけ。幼稚園から小学中学高校。そして大学受験。ここまでで約20年。その時、僕らは50歳半ばを過ぎているよ」


「……」


「30歳過ぎての5年でわかっただろう。生まれるかも知れないと思うだけで、食事も遊びもいつの間にか制限されていた」


「そんなつもりはなかったの…でも私が悪いのです。ごめんなさい」


「僕は決めた。理恵子と二人で生きて行く。子供は要らない。二人で素晴らしい人生を創ろう」


                        つづく

次回は3月27日金曜日朝10時に掲載します