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        不妊の幸せ 3.

 そこはマンションの5階。久しぶりの鰻重に満足して二人は帰り着いた。ドアを開けながら、


 「お風呂入れるわね」


 美紀夫は無言のまま、続いて入った。理恵子は電気を点けるとそのままバスルームへ行った。


 理恵子の明るい声と顔に、美紀夫は思った。最近一緒に出掛けることが少なくなった。理由もないのに。


 ソファーに座ると反省した。そして、思い直したように、


「来週も行こうか?」


「えっ、なあーに聞こえないの。もうちょっと待ってね」


 バスルームの蛇口の音で聞こえずらかったようだ。バスルームから出て来ると、


「ね、さっき何て言ったの?」


 美紀夫は広げた新聞をテーブルに置いて、


「来週また行こう」


「えっ、本当に!来月じゃなくて?」


 理恵子はにっこり笑って嬉しそうに言う。


「来週の土曜日にしよう。大丈夫か?」


「大丈夫よ、私、休みだもん」


「よし、決まり。珈琲淹れてくれる?」


「あっ、ごめんなさい。今、淹れます」


 紙パックのドリップ珈琲。珈琲の香りが部屋に漂い始めた。この香りは気分が落ち着く。


「はい、どうぞ。私も一緒に飲むわ」


 向かい合って飲み始めた。理恵子が嬉しそうな顔をして美紀夫を見つめている。その視線をかわすように上を見て、


「子供って必要か?」


 唐突に言った。


「どうしたの、急に」


「この5年間。いつ生まれても良いようにと、心の準備はしていた。しかし、そのために外出を控えたり食べ物にも気を配ったり。何だか縛られているようだ」


「……」


 理恵子ははっと思ったが、黙って聞いていた。


「結婚して最初の5年間は、子供は作らない。僕達の幸せが一番と、好きなように暮らした。殆ど毎晩外出と夜更かし」


「そうだったわね。あの頃楽しかった。毎晩デート」


「僕らの青春だった。君といる幸せを心から思った。この幸せが、いつまでも続いて欲しいと思っていた」


「私もそうよ。美紀夫さんといると毎日が幸せだった。あの頃が懐かしい」


「ところが、僕の親も君の親も子供は早く作るべきだとか、孫が早く欲しいとかとか言って、色々と攻め立てる」


「ごめんなさい。私が末っ子だから、父母ともせかしてしまって…」


「それは同じだ。僕は長男だから、跡継ぎだとか初孫だとか言って自分たちに孫が欲しいもんだから」


「……」


 理恵子は返事が出来なかった。申し訳ないと思った。


「しかし、子供は今だに授からない。口にはしなかったが、最近はそのことが頭から離れない。多分、君もつらい思いをしているのではないかと思う」


 その言葉を聞いた時、理恵子は両手を顔に当てて泣き出した。


                       つづく

次回は3月20日金曜日朝10時に掲載します