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          不妊な人生 2.

 「おいしい!」


一箸口に入れると、子供のような笑みの顔になり目を細めて理恵子は言う。


 連れて来て良かった。梅が咲き、これから桜が花開く。嬉しそうな理恵子の顔に美紀夫は心が晴れてきた。


 1時間程前、ふらりと実家に立ち寄った。別に用があるわけではない。自宅マンションから車で10分程のところだ。


 母は何か言いたげだが、何も言わない。父も黙って煙草をふかしている。お茶だけ飲んで帰って来た。


 昨年の春までは、母の一言目には、


「お父さん、孫を楽しみにしてるのよ」


 出来ないものは仕方無いじゃないか。ついむかっときて、


「出来ないんだよ!」


 言い返して帰って来た。それから実家には帰らなかった。しかし、秋に書類捺印のため帰らざるを得なかった。


 看板屋しているが、税理士の助言があって株式会社にした。仕事がどんどん増えてきたが人が集まらないからだ。


 事務員が1人、作業員が3人である。仕事の依頼が増えるのに人が集まらない。


 社会保険が無いのも理由の1つだった。株式会社にしてから、作業員は5名になった。いや、社員である。


 父に取締役になって貰った。任期の2年目が昨年の秋だった。仕方なく実家に訪れた。母は涙を流していた。


 話をすると、父は黙って書類を受け取り目も通さず、


「うまくいってるようだな。頑張れよ」


 ぽつんと言って捺印した。


「ありがとう」


 それだけ言って帰って来た。母の涙が忘れられず暮に2人で訪れた。父母の喜びようはこの上無いものだった。


 母と理恵子が仲良く正月の料理まで作った。本当の親子の様で美紀夫は嬉しくなった。父は相変わらず無口だったが嬉しそうに煙草をふかしていた。


 そのまま泊まって正月に帰った。父母は子供に関する話題は一切口にしなかった。美紀夫は胸が痛かった。


 以来、時々顔を出すようになった。


「どうしたの?何か心配事?」


「何でもない。あまりにおいしそうに食べているから反省してたんだ」


「何を反省してたの?」


 質問には答えず、


「幸せか?」


「幸せよ。どうして?」


「僕と一緒になって幸せかなと思って」


「ねえ、どうしたの急に…。私、何かいけないことした?」


「そんなこと何にもないよ。理恵子の嬉しそうな顔を見て反省してたんだよ。又近いうち連れて来ようと思ってね」


「ほんとに、じゃ、いっぱい反省してね!」


「ああ、わかったよ。来月また連れて来る」


「今夜もね…」


「何?今夜って」


「良いの、何でもないの」


 理恵子は美紀夫を見て、ため息をついた。鈍感なんだから……。


                      つづく

次回は3月13日金曜日朝10時に掲載します