Shopping Cart
Your Cart is Empty
Quantity:
Subtotal
Taxes
Shipping
Total
There was an error with PayPalClick here to try again
CelebrateThank you for your business!You should be receiving an order confirmation from Paypal shortly.Exit Shopping Cart

        マスク美人 2.

 女性の顔など気にも留めていなかったが、寂しそうな顔をしていた。そう見えたのである。


 それは男の思い込みから来ていた。マスクを掛けた女性は風邪等を患い、病弱で寂しそうに見えていたからである。


 コロナの流行によりマスクは感染予防のためで、病気を患っているわけではない。


 人は目と眉だけで表情がわからなくなった。犯罪者は顔を隠すためにマスクを利用した。怖い世の中になった。


 美人は目眉鼻口の形とバランスで決まる。さらに顔の輪郭である。この5つの項目が満たされて美人となる。


 マスクを外すとがっかりすることはよくある。外す前は美人でも外してからは普通の人である。


 人は不思議な能力を持つ。見えない部分を無意識に想像で補うのだ。


 富山県八尾町の [おわら風の盆] はその最たるものと言えよう。女性の踊り歩く姿は編み笠で顔が殆ど見えない。


 家並みに沿って並ぶぼんぼりの淡い灯りの中、女性が半月の編み笠を被り、哀調ある唄に乗せて踊りながら歩く。


 編み笠の間から少し顔を覗かせた姿は、幻想的で優美でさえある。それはせつなく辛いほどに男心を締め付ける。


 男は声を掛けられて嬉しくなった。綺麗なひとだと思った。マスクで顔が隠れているのに。そう思った。


 そして、何でも良かったのですと答えた。本当は買おうと思っていた。彼女が買ったのなら悪いと思ったからだ。


 持参の袋にカツサンドなど入れ終わり、横を見ると彼女はいなかった。


 それから10日も過ぎてそんなことなど忘れていた。次は降車駅である。スマホを胸ポケットに入れた。


 目の前にこの前の女性が座っている。あの顔は忘れられない。すぐにわかった。女性は全く気付かないようだ。


 きっと降りるはずだ。彼女が立つのを待って立ち上がった。何気なく後ろに並んだ。やっぱり降りるのだ。


 改札を出るとスーパに入って行った。入口でスプレー消毒を始めた。ふと、後ろに並んだ男に気付いたようだ。


「こんばんは、先日はどうも」


 男は思い切って声を掛けた。笑顔を作って。女性は戸惑ったような顔をして男を見た。そして思い出したのか、


「こんばんは、こちらこそ」


 女性はにこりとした。綺麗な人だ。男は改めて思った。後ろの人がすみませんと手を出した。中年の女性だった。


「どうぞ、ごめんなさい」


 男はその後ろに並んだ。女性は行ってしまった。がっかりした。消毒を済ませると店内を見回した。どこにも見えない。


 左手に鞄、右手に店のカゴを持ち何を買おうかと歩いていると、乾麺のコーナーに女性はいた。


 男はどうしようかとためらった。ストーカーみたいだからだ。それでも彼女の後ろに立った。


「あら、麺になさるの?」


 懸念は必要なかった。気安く声を掛けてくれた。


「蕎麦にしようかと思って・・・」


「私も蕎麦を選んでいます。たくさんあるからどれが良いかと迷ってしまいます」


「でしたら、これお勧めですよ。お店で食べる手打ちと間違える程です」


「ありがとうございます。これ買って帰ります」


 男も同じものをカゴに入れた。女性はそれを見て、


「お蕎麦お好きなんですね」


「大好きです。あっちこち食べ歩いてます」


「教えて欲しいですね。この辺に美味しいお蕎麦屋さんありますか?」


「残念ながら近くにはありません。ちなみに神田のやぶとかまつやは行かれたことありますか?」


「いえ、ありません」


「歴史的な蕎麦屋ですので、一度行ってみると良いですね。両方ともここから1時間ぐらいで行けます」


「是非教えて下さい」


 男は鞄の中から手帳を取り出した。


「今、メモを差し上げます」


                      つづく

続きは9月18日金曜日朝10時に掲載します