うちのひろと

♪退屈な待ち時間などに3分小説をどうぞ
面白い!気分が明るくなります。読後感が爽やかです
3分41話.5回8話.10回6話.15回7話.23回1話
時代小説9話
[がまの油売り][ひきょうもの][やぶ医者俊介]
[どんぶりめし][人に華あり][おつる][ちんこきり]
[護り屋異聞記] [片腕一刀流]
9、井戸端会議
水温む春とは良く言ったもので、人の心も理由なく温んだ。後十日もすると四月である。
朝五つ半(午前九時)、井戸端は今日も相変わらず賑わっていた。
近頃はきぬも仲間入りしていた。
「あんた、ご亭主は
改心したようだね」
「そうだよ、あれ以来、無口になっちゃってね。別人みたいだよ。飲みにも行かなくなったしね」
「やっぱりね。顔つきも変わっちゃったよ」
「そうそう、良い男になったよ。先生程ではないけどね」
「あら!うちの人聞いたら喜ぶよ」
「確かにね、渋いよ。夕方帰りにばったり顔を合わす時があるんだよ。お帰んなさい!て声かけると、以前はおっ!と手を上げてにかっと笑いながら帰って行ったんだよ。それが近頃は頷くだけで黙って行っちゃうよ」
もう一人のおかみが言う。
「照れてるのかもね。あんな大事件起こしたんだもの。でもね、あの顔ぐっととくるよ」
「あんた!まさか、うちの人ねらってんじゃないよね?」
「あはは、ばか言うんじゃないよ!あんたと兄弟はごめんだよ」
「姉妹と言うんじゃないの?」
「そうだよ、そうなったらおしまい(姉妹)だよ」
「わっははは!わっははは・・・・・・」
まるで男、三人は大笑いする。きぬは笑う意味がわからなくて合わせ笑いをする。
「そうそう、おきぬちゃん!あんたんとこどうなってるの?」
「あたしも気になってんだよ、どうなってんの?」
「どうなってるって、どう言うことですか?」
「夜になると帰っちゃうよね」
「そうだよ、何で帰っちゃうんだよ。一日一緒に居てさ」
「わけわかんないよ。もったいないよね」
「どうしてですか?もったいないって」
「おきぬちゃんはいくつになった?」
「はい、十九歳です」
「ふーん!あたしなんか十五の時よ。花も恥じらう乙女だったよ」
「あんたも十五の時があったんだね。今じゃ想像もつかないね」
「清らかなあたしが、恥じらいながら花を散らしたの」
夢見るような顔をして言う。
「あの鬼瓦のような亭主とかい!」
「鬼瓦で悪かったね!あんたの亭主よりましだよ。ひょっとこ顔よりね」
「あはは!ひょっとことは良く言ったね。あたしも思ってたんだ。どこかで見たことあるなって。確かにひょっとこだ!良く似てる」
「あんなのと毎晩励んでるらしいが、良く続くね」
「なに言ってんだよ!わかりもしないくせに」
「残念でした。隣だから筒抜けなんだよ!激しいんだから」
「冗談じゃないよ。あたしんとこは、お前さんの声で毎晩眠れないんだよ」
「しょうがないだろ、すること無いんだから」
「男の盛りを納めるのは女の大事な仕事だよ。二人とも良い加減におしよ」
「そう言えば、先生は男盛りだから辛いだろうね」
「あたしが変わってあげても良いんだけど、先生が承知するかどうか」
「ばか!するわけないだろう。あたしなら良いかもね」
きぬはやっと意味がわかったらしく、洗濯しながら顔を赤らめた。
「余計なおせっかいかも知れないが、おきぬちゃん何で夜になると帰って来るんだよ。先生が帰れって言うのかい?」
「いいえ、私が自分で帰って来るのです」
「ふーん!先生のこと嫌いなんだ?」
「あたしたちいつも言ってるんだよ。お似合いだよねって。羨ましく思ってんだよ」
「そうだよ!自分から帰っちゃいけないよ。先生が帰れって言ったのなら仕方ないけどね」
きぬは心がどきどきしてきた。そして、なぜか身体が熱くなってきた。
「おきぬちゃん聞いてる?」
三人は覗き込むようにしておきぬを見た。
「はい」
小さな声で答えた。
「先生は、硬い人だから泊まって行けとは絶対言わないね。でもね、帰れって言わないんだろう?」
「はい、言われません」
「長屋住まいでも侍だからね。侍は見栄ばっかり張るんだよ」
「ねぇ、おきぬちゃん。先生が帰れって言うまで居るんだよ」
「そうだよ、早く先生と一緒になりなさいよ!」
きぬは耳まで赤く染めた。
長屋では賃粉切りが一段落したようだ。
「おきぬちゃんどうかしたか?今日は全然話しをしないね」
一平はいつになく口数の少ないきぬに心配した。もう直ぐ夕方である。
「すみません、これから夕ご飯の用意をします」
「すまないね、よろしく頼むね」
夕食が済むと井戸端に茶碗などを洗いに行き、それが済むといつも自分から帰って行った。
今日は、又お茶を淹れた。
「一平さんどうぞ」
「ありがとう、今日は量が多かったから疲れただろう。私も疲れた。少し休みなさい」
きぬは帰れと言わない一平を見て、胸がどきどきしてきた。そして口が渇いてきた。思わずお茶を飲んだ。
これからどうしようと思ったがどうして良いかわからない。お茶を、出来るだけゆっくり飲むことしか思いつかなかった。
つづく
次回10回は9月26日火曜日朝10時に掲載します
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