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      4、金貸し

 「ずいぶん少ないね。これじゃすぐ終わってしまうよ。貸してごらん。見ててね」


 一平はきぬの持って来た煙草の葉をすぐに刻み終えた。きぬの倍以上の速さであった。しかもきぬの刻みより細かく綿のようにふんわりと仕上がっていた。


 きぬは驚いた。同じ葉で作ったとは思えないほど、細やかで柔らかそうな刻み煙草が出来上がっていた。


「おきぬちゃん!もっと煙草の葉を持っておいで!今度はおきぬちゃんに刻んで貰うよ」


 きぬは一平の言葉が嬉しかった。そして、頼もしかった。最初に学んだのは包丁を良く研ぐことだった。切れが悪いから腕全体を使い、力による押切になっていた。


 研ぎ澄まされた包丁を使えば、手首の上下だけで細かな刻みが出来た。手の平の豆も切れない包丁での押切が原因だった。切れないので手の平に力が入って出来たのである。


 二人の行き来はここから始まった。とは言え隣に住んでいながら、三日に一度ぐらいである。きぬが一方的におにぎりをや煮物をおすそわけした。時には洗濯を申し出たが、それは断られた。


 始めの頃は二人の進展をおかみ達は噂し合ったが、最近は何の進展も起こらないので話しにも上らなくなった。おかみ達はきぬを見ると口癖のように、


「おきぬちゃん、頑張んなさいよ!」


 と励ましだか冷やかしだかわからない言い方をした。


 あれから半年程経つが一平は引っ越さなかった。江戸に来て初めてのことだった。


 そんなある日の夕方。女のけたたましい叫び声が聞こえて来た。長屋中の人が外に出て来た。声はいつものおかみ達三人組の一人である。やくざ者二人に外に引きずり出されている。亭主であろうか、それを止めようとして踏んだり蹴ったりされている。


「もう止めて!死んじゃうよ!あたしが行きゃあ良いんだろう!」


「初めから素直に来りゃあこんなことにはならねえんだ!ばかやろ!」


「待ってくれ!金は明日までに必ず用意する!頼むから一日待ってくれ!」


 その亭主は、乱暴された身体を振り絞るようにして必死に言う。


「ふざけんじゃねえ!てめぇ!そう言って二日も延しやがって!」


「しかし、一両の金が何で一ヶ月で十両になるんだよ!」


「てめー!まだほざきやがるのか、利息だよ!」


 やくざ者は喚きながら、片足で亭主を蹴ろうとした。ところが反対の足を蹴りすくわれた。両足が宙に浮き、もんどりうって仰向けにひっくり返った。


 いつの間にか一平がそこに立っていた。


 もう一人の男が殴り掛かってきた。さっと左へ躱した。躱されて前につんのめった男の背中を右足で蹴飛ばしたからたまらない。男は顔面から地面に突っ伏した。


 さすがに二人は喧嘩慣れをしている。二人とも直ぐに立ち上がった。顔面から突っ伏した男は鼻血を吹き出しながら、どすを抜いて一平に突進した。


 一平は今度は右へ躱し、右手刀で後ろ首を叩きつけた。男はガクッと膝からへたり込むように気を失った。


 それを見たもう一人は、その場から逃げ出そうとした。


「待て!連れて行け!」


 一平の声は聞こえたはずだが、その男は一目散に逃げて行った。仲間を呼びに行ったのかも知れない。


 女房は亭主をかばいながら、二人でよろよろとしながら寄って来て、


「ありがとうございました。助かりました。ありがとうございます」


 二人で何度も頭を下げる。


「しかし、これで済んだわけではないだろう」


「へぇ、あいつら、かかあが狙いだったんです。あっしにはもったいないくらい良い女ですから」


「返す金はあるのか?」


「あっちこち借り集めて二両と二分はあります」


「そうか、わかった」


「どうにかなりますでしょうか?」


 その時、もう一人の男が息を吹き返した。立ち上がると、


素早く走り出し、十間程行って振り返り、


「覚えてろ!」


 捨て台詞を吐いて走り逃げた。


「今度取り立てに来たら、私を呼びなさい」


「先生!ありがとうございます。よろしくお願いします」


 集まっていた長屋中の皆が口々に、


「先生!よろしくお願いします!」


 一平はいつの間にか先生と呼ばれていた。そして、長屋の皆はそれぞれに自分の部屋へ戻って行った。


 一平も部屋に入ろうとした。きぬがいつの間にか袖につかまっている。見ると真っ青な顔をして唇をわなわなと震わせていた。


「おきぬちゃん怖かったか、もう心配ないよ。少し休んで行きなさい」


 頷いてそのまま入って来た。一平が冷めたお茶を出すと、一口二口と口にしてやっと落ち着いてきたようだ。


 無理もない十八歳とは言え、世間を知らない。まだ、口が利けないようだ。余程のショックだったのだろう。


その時、


「先生!先生!助けて下さい!奴らが大勢で来ました!」


 入口越しに必死の叫ぶ声が聞こえて来た。


                                 つづく

次回第5回は8月22日火曜日朝10時に掲載します。