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            3、勘違い

「今の見たかい?入ってっちゃったよ」


「今の若い子は節操がないねぇー!」


「あーあ、戸を締めちゃったよ」


「一平さんも、すみにおけないね」


「あたしも、ああやって入っちゃえば良かった」


「ばか言いでないよ、顔と相談しなよ!」


「おでこに梅干しなんかくっつけちゃって、塩まかれるのがオチよ」


「しょうがないだろう、頭の芯が時々ずきんずきんってするんだよ」


「なんだ、頭痛持ちか!金持ちなら入れてくれたかもよ」


「一平さんも一平さんだよ!あたしゃ見損なったよ!」


「何してんだろね。まだ出てこないよ!」


「今、入ったばかりだよ」


「きぬとか言ってたね。気を付けなきゃいけないね」


「虫も殺さぬ優しい顔しちゃってさ!」


「一昨日、うちに挨拶に来た時なんざ、亭主の改まり様たらなかったよ。急にかしこまって猫撫で声を出すんだよ」


「そうそう、うちのもそうだよ。なんかお困りなことがあったらいつでもどうぞだって。家じゃ何も手伝ったことないよ!」


「あたしだって、若い時はきれいだったよ。道歩けばみんな振り返ったもんだよ」


「おかめが歩いてるって、物珍しかったんだよ!」


「言ったな!ひょっとこ!」


「ばか!ひょっとこは男だよ!」


「その男顔だよ、あんたの顔は熊みたいだもの」


 その瞬間、バシャッと手桶の水をかけられた。


「ちくしょう!こうしてくれる」


「やめなよ!大人げないね。あいつら何してんだろうね?」


「そうだった。はしたないね。節操がないよ!」


 おかみ達の話は始めに戻った。これからまた繰り返す。洗濯はいつ終わるのだろうか?


 きぬはお茶を差し替えると立ち上がり、


「お邪魔致しました。これで失礼致します」


「今来たばかりじゃないか、ゆっくりお茶を飲んで行きなさい。それとその言葉遣いはよそよそしいね。昔のおきぬちゃんで行こうね」


「はい、でも・・・・・」


「そうか、忙しいのかな?」


「いいえ、引っ越しで三日間仕事を休んでしまいまして、少し遅れています」


「何だ、そうだったのか。じゃ、少しここに持っておいで、包丁の使い方も教えてあげる」


「でも・・・・・」


「子供が遠慮するもんじゃない」


「もう、子供ではありません!」


「あっ、ごめんごめん!間違い!おきぬちゃん持っておいで」


 きぬはにっこり笑い、


「はい!持ってきます」


 嬉しそうに出て行った。


「ちょっと、出て来たよ!」


「えっ、本当だ!早いね、もう終わったのかな?」


「あんた、なに考えてるの?」


「あんたと同じよ!」


「嫌らしいね!」


「あら、やだ!あたし何にも言ってないよ」


 おかみ達は洗濯よりも話が多い。高笑いは一平の所へも聞こえていた。


 その時、きぬが煙草の葉とまな板を風呂敷に包み左手に下げ、右手に包丁手にして出て来た。包丁は危ないので布で巻いてある。しかし、すぐ包丁とわかる。


「ね、あれ包丁よ!」


「危ない!」「止めないと」


 おかみ達は、三人一緒になって走り寄った。後ろから一人、前から二人。


「何があったか知らないが早まっちゃだめ!」


「あんなろくでなし、殺したって何にもならないよ!」


「お天とう様は、ちゃんと見てなさる。必ず罰が当たる!」


「悔しいだろうが早く忘れること!」


「仇は取ってやる!あたしたちに任せて!」


「それよりも、早く洗ってお出で!子供が出来たら大変だ!」


「あんた!それを言っちゃだめだよ!」


 きぬはあっけにとられて、


「あのう?何のことでしょうか?」


 あまりのけたたましい騒ぎに、きぬを心配して一平が出て来た。


 それを見たおかみ達は一斉に、


「この人でなし!」


「下衆野郎!」


「嫁入り前の綺麗な身体を汚しちまって!」


「人間のくず!」


「どうしてくれるんだ!」


 一平はあまりの言葉にむっときたが、ぐっと腹に留めて、


「どうしたのだ、この騒ぎは?」


「謝れ!きぬさんに謝れ!」


「一体何のことだ?」


「よくもきぬさんを手籠めにしやがったな!」


「謝れ!きぬさんに!」


 きぬは、手籠めの言葉でおかみ達の勘違いを知ったようだ。


「皆様、ご心配ありがとうございます。そう言うことはありません」


「でも、その包丁が?」


「恨み返しでしょう?」


「いいえ、これは私の仕事、賃粉切りの道具です。一平さんに教えていただきに行くところでした」


 ここで、一平が口を開いた。


「おきぬちゃんは、前の長屋で隣どうしだった。その縁でおきぬちゃんの父上に、賃粉切りを教えていただいた」


 ここで一平は当時を思い出したのか、一瞬言葉を呑んだ。


「その父上が亡くなっておきぬちゃんはここに越して来た。今度はその恩返しに、私がおきぬちゃんに教える番だ」


 三人のおかみ達は身体を縮めるようにして小さな声で、


「すみません」「すみません」


「申し訳ありません」


 と口々に言う。心から詫びているようだった。しかし、何が幸いするかわからぬものだ。きぬはこのことをきっかけに、おかみ達と仲良くなった。又、何かと世話をやいてくれた。


 おかみ達は何度も頭を下げながら、井戸端へ帰って行った。


「おきぬちゃん!中へ入んなさい」


 と一平は言いながら、きぬへの気軽な気持ちは失せていた。


 きぬも、手籠めの話を聞いてから、一平を真っ直ぐに見られなかった。心配からではない。なんだか気恥ずかしかった。


 一平もそうであった。これまでのきぬとして見ることが出来なくなっていた。


                             つづく

次回第三回は8月15日火曜日朝10時に掲載します。