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    27.江戸家老

 茶店は混んでいた。5人掛けの椅子に相席をした。二人先客がいた。食卓は無い。


 当時は団子の皿を膝の上に置き、お茶を飲みながら食べていた。団子は一種類。焼いた醤油団子のみ。


 団子とお茶はすぐ運ばれてきた。焼きたての団子は格別うまかった。食べながら二人の顔に自然と笑みが浮かんでいた。


 ふと、一平は人の目に気付いた。店の端で見え隠れする男がいる。顔は良く見えない。


 一平は無腰である。常日頃、職人風の身なりをしていた。きぬが一緒にいる。万一のことを考え、一人で店奥へ入って行った。


 薪の中から三尺程の薪を選び、手にして戻って来た。


「どうなさるのですか?」


 きぬは不審げに聞く。


「ちょっと足をくじいたようだ。先程から少し痛い。杖代わりに所望してきた」


「それはいけません!今日はもう帰りましょう」


「大したことはない。転ばぬ先の杖と言うではないか。そのたぐいだ」


「いえ、いけません!また来れば良いことです。帰りましょう」


 きぬの一平への心配に負けて、二人は茶店から帰ることにした。


 深川へ帰る道に、二カ所人通りの少ない道がある。襲って来るならどちらかだろうと、一平は検討をつけた。


 一カ所目は何事も無かった。付けて来るのは二人だった。


二カ所目に近づいた時、付け来た二人が急に走り出した。


「きぬ!よけていなさい!」


 道端へよけさせた途端、一人が後ろから斬りかかって来た。振り向きざま右へよけた。それは万一の場合、きぬを助けるためである。


 瞬間、もう一人が斬りかかって来た。一平の薪はその男の右腕を叩きつけていた。鈍い音がした。男は刀を地面に落とした。


 初めの男が、再度素早く斬りつけて来た。一平はよけもせず、ずいと前へ半歩進みながら、刀を払うように右腕を払った。


 同じく鈍い音とともに、男は刀を落とした。


 男は武村だった。一平は武村の胸倉をつかみ、


「なぜ、私を斬る!」


「川瀬殿の仇だ」


 痛さを堪え、呻くように言う。


 もう一人は松野であった。呻きを押さえながら刀を持ち直そうとするが無理だった。


 右手はだらりとよじれて垂れていた。骨折である。武村も同じであった。


「松野殿、何が理由だ?」


 松野は無言だった。一平は二人をそのままにして、きぬを先に歩かせ帰って行った。


 深川の長屋に着いた。引き戸を閉めた途端、きぬは一平にしがみつくように抱きついた。


「怖い思いをさせたね。ごめんね」


 優しく抱きしめ返した。きぬは小さく首を振り、一平の胸に顔うずめた。


 一平せつなくなってきぬを強く抱きしめた。そして抱き上げると畳に上がった。


「草履履いたままです」


「良い、良い!今脱がせてやる」


 畳に抱いたまま座った。きぬを膝の上にのせ、草履を片足ずつ土間に放り、愛おしさできぬの口を吸った。


 成りゆくまま二人は一つになった。


 藩の江戸屋敷では大騒ぎが起きていた。二十年以上平穏で何事も無かった太平の藩に、藩士が二人が骨折して帰って来たのである。


 二人は一刻程帰りをずらしたが、何の効果も無かった。


 揃って右腕の骨折と言うのも騒ぎを大きくした。


 聞きつけた江戸家老は、用人を呼び厳しい吟味をさせた。二人は口が堅く二日に及んだ。三日目は松永が呼ばれ、さらに厳しい吟味がされた。


 驚愕すべきことが次々とわかった。藩の重職柳浦が絡んでいたのである。川瀬の仇討ちは、それを隠すための手段であった。


                                   つづく

次回28回は1月30日火曜日朝10時に掲載します