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   26.理由(わけ)

 松永は波江に酌をされ心地よく飲んでいた。


「松永様、新見はそんなに強いのですか?」


 敬一郎は”理由は知らぬ方が良い”の言葉が気になり、話を蒸し返した。又、松永の前ではわざと新見に敬称を付けなかった。


「強い!今、藩内では師範代以外に勝てる者はいない。だから二人でどんなに力を合わせても勝てる見込みはない」


 松永は波江に向き直ると言葉を続けた。


「波江殿、助勢が必要だ。お二人以外に少なくとも二人は必要だ。私に任せられい」


「ありがたいお言葉ですが、二人で戦います。先日も申し上げましたように、勝つことのみが仇討ちとは考えておりませぬ」


「どう言うことかわからないが、それで川瀬殿は満足されるかな?」


「いまだにわかりませんのが、新見様との試合に負けた父がなぜ新見様に斬られたのでしょうか?」


「新見がひきょうな男だからだ。川瀬殿が勝っていたとのうわさに腹を立てて、突然斬りかかってこのようなことになった」


「父の無念さは計り知れない。まして新見を友人にと思っていただけに・・・」


 敬一郎は、松永が秘していることを聞きだすために、新見を引き合いに出す。


「だから、なんとしても新見を斬らねばならぬ。同じ藩士としても捨て置けない」


 今度は波江が聞く、


「松永様、その新見様のことが気になるのです。友人であったはずです。なぜ話合おうとしなかったのでしょうか?」


「かっとなってのことか、若しくは他にわけがあったのかも知れぬ」


「松永様、先日理由は聞かぬ方が良いとおっしゃいましたが、ひょっとして何か関係がありますか?」


「それは無い!」


 松永はなぜか強調気味に言った。


「変ですね。何かお隠しになっていらっしゃいませんか?」


 波江は必死の顔で言葉を続ける。


「お願いです。父に関することだと察します。どんなことでも聞いておきたいのです。お教え下さい。お願いいたします」


「そこまで言うなら話そう。考えてみれば知っておく必要があるかも知れない」


「八年前にさかのぼる。師範代を決める試合があった。日頃の立ち合いでは川瀬殿が優位にみられていた。しかし、勝負は柳浦様がお勝ちになった。今の師範代柳浦様だ」


「実は、裏があったのだ。当時川瀬殿は労咳の妻女を抱えていて、金策に駆けまわっていた。柳浦様はお父上が藩の重職にあり裕福であった」


 そこまで言って松永は言葉を切った。言い淀んだと言った方が良い。


「それは確かですか?」


 波江は気落ちしたような顔になった。


「私が間に入ったから間違いない。しかし、藩の誰も知らないことだ」


 波江は気丈に振舞っていたが、目は赤く染まって来た。必死に堪えている。


「ありがとうございました。良くお話下さいました」


 浅草は江戸一番の賑わいである。今日は晴天。人また人で、皆ぶつかり合いながら歩いている。


 慣れて来ると何でもない。すりが多いのも浅草の名物だった。


 困ったのは後戻りが難しいことである。行くか戻るか流れに任せるしかなかった。


 団子を焼く醤油の良い匂いが漂ってきた。なんとも食欲をそそる匂いだ。


「きぬ!茶店で休んでいくか?」


「はい!お腹が空きました」


 一平ときぬはしっかり手を握り合い、人の間を縫うようにして茶店に入って行った。


 その三間程後ろから、二人の男がつかず離れず付けていた。つ


 一平は気付いていなかった。


                               つづく

次回27回は1月23日火曜日朝10時に掲載します