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        24、回想

 「お待ちしておりました。どうぞお入り下さい」


 たばこ屋の親父は待ちかねていた。一平の役に立つことが出来たと嬉しそうであった。


「お二人ともいらっしゃいます。松野様と武村様は、江戸詰めを長きにいらっしゃいますのですぐにわかりました」


「役目などはわからないだろうね?」


「わかりません。ただ毎朝お出かけになり、夕刻にお帰りになるそうです」


「二人とも?」


「そのようです」


「かたじけない。ご面倒をおかけした。お礼申す」


 一平は頭を下げる。


「お役に立てて何よりです」


 一平は帰り道々、疑問がさらに増した。


剣の指南ならわかるが、日々出かける役目とは何のことか。まさか、自分のことを探しているわけではないだろうと思ってみたりした。


 松野と武村は剣仲間ではあるが剣友ではない。言葉を交わすことはほとんど無かった。


二人とも道場では先輩であった。十五年前、一平が新入りの時の先輩である。


 一平はめきめき腕を上げた。天賦に恵まれていた。五年後、早々と道場内の上位者となっていた。


 その頃一平は、七つ年上の川瀬と良く対戦練習をした。それが縁で友となった。正に剣友である。


当時、一平の両親も健在でお互いの家を良く行き来するようになっていた。


 川瀬は禄高の違いを少しも意識させなかった。妻女もいつも笑顔で迎えてくれた。


 美しい人だった。茶菓だけでなく酒宴までもお世話になった。


 一平は妻女が労咳を患っていたとはつゆほども知らなかった。肌の色が抜けるように白かったのは、そのせいであったのかも知れない。


 二年後、流行り風邪を併発して急に亡くなった。敬一郎はまだ子供だった。


 一平には当時のことが色々思いだされてきた。そこでふと思いだしたことがあった。川瀬がその頃、金策に立ち回っていたことを。


 その事は一平には少しの相談もなく、寂しい思いをしていた。自分からは聞くわけもいかず辛かった。


 しかし、今にして思えば、なぜ自分から聞かなかったかと悔いている。微力でも力になりたかった。


 後でその金策が、妻女の薬代とわかった時は、申し訳なくて胸が潰れそうになった。


 波江も敬一郎も両親を亡くした。一平も同じである。その双方が、仇討ちの討つ側と討たれる側になった。


 ましてや、川瀬は一平の親友である。運命は残酷であった。


                                  つづく

次回25回は1月9日朝10時に掲載します