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  21、波江の胸の内

  敬一郎は涙を拭おうともせず、


「新見様、先程覚悟は出来ているとおっしゃいましたが、どう言うおつもりでしたか?お聞かせ下さい」


 一平は目を瞑った。


「お答え下さらないなら私がお話します。この仇討ちは力が違いすぎます。姉と私がどんなに頑張っても赤子の手をひねるようなものです。覚悟が出来ていると言われたのは、わざと斬られるおつもりだったと思います」


 一平の後ろに控えるようにして座っていたきぬが、声を殺して泣き出した。両手で顔を押さえ上半身を震わせている。うっ、うっ、うっと漏れ聞こえる。波江がそばに行き優しく両肩を抱いた。


「心配はいりません。安心なさい」


 優しく波江が声をかけた。


 実は波江が一番泣きたいのだ。それは胸に深く秘めていた。


 敬一郎が話を続ける。


「この仇討ちは間違いです。今のお話を聞いてはっきりしました。谷村様の、口を濁されたお話の謎も解けました」


 ここで敬一郎は両手をついた。


「新見様、数々のご無礼ご容赦下さい。また、それにも拘わらず、お心とご配慮に感謝致しております」


「敬一郎殿、どうぞ頭を上げて下さい。お詫びするのは私の方です。今にして思えば、私が迂闊だった。」


 少しの間をおいて悔いたように、


「自筆でない果たし状を貰った時に気付くべきだった。噂が蔓延している最中、渡された果たし状にかっとしてしまったのです。あの時、直接川瀬殿に問うてみれば良かったのだ」


「新見様、取り巻き三人の名前はわかりますか?」


「脇村修藏、江本一馬、松永正之の三人だ」


「脇村修三様は父の死の半年後、今坂神社の階段を踏み外して亡くなっております」


「百五十七段もあるからね、日中のことかな?」


「わかりません。明け方通行人が知らせたようです。実は新見様のことを、ひきょうものと噂を広めた張本人と言われています」


「私はひきょうものか。仕方ないな。そう言われるのも覚悟の上だった」


「その後、脇村様を殺したのは新見様だと噂が立ちました」


「出来過ぎた話だな」


「松永正幸様は、三年前の春から江戸詰めになっております。私共の出立の少し前でした」


「今も江戸屋敷に住んでいるのかな?」


「松永様は、月に一度は私達の長屋に顔を出します」


「何の理由で?」


「仇討ちの助勢を理由に、姉に言い寄っています」


「住み始めて約二年半なりますが、今もって、私達の住まいがなぜわかったのかわかりません。知っているのは郷里の祖父母だけのはずです」


「住み始めは家僕も一緒でしたが、いつの間にかいなくなりました。万一を考えてそこは引っ越しました。だから、松永様が知るわけがないのです」


「奇妙なことだな。しかし、藩がかりで動けば難しいことでは無い。何かわけがありそうだな」


「私もそう思います。私的な仇討ちに藩が動くはずがありません」


「うむ、しかし、松永の個人的な人探しでは、この江戸では探し出すのは難しいだろう」


「そう思います。新見様をお探しするのも、姉と二人で三年かかりました」


「苦労をお掛けした。お詫び致す。この通りだ」


 一平は深々と頭を下げた。


「とんでもありません。父の事は謎だらけでした。お会いできて本当に良かったと思っております」


「私は江戸に来た当初、逃げ回ることが川瀬殿の為になると思っていた。ところが、暫くして風の噂に聞いた。川瀬殿は斬り殺された。斬ったのは新見だと言う。憤慨したがどうにもならない。取り巻き三人の仕業だと思う」


 一平は怒りを抑えて語気静かに言う。さらに、


「藩に戻って三人を問い詰めようと思ったが、お二人が仇討ちに藩を出られたと聞いて、考えを変えた」


「脇村が死に松永が江戸に来ていると言うのは、何かわけがありそうだ。それは私に関係があるのか、川瀬殿に関係があるのかいずれかだろう」


「松永様はいつも月末近くに私共の所にお出でになります。今日は月末に近いので、二、三日内にお出でになると思います」


「それは好都合だ。酒でも飲ませて、郷里の話をしてくれないか、きっとぼろが出ると思う。波江さんも一緒にお願いする」


 二人はそれから程なくして帰って行った。


 二日後、松永が夕七つ(十六時)、波江を訪ねて来た。


 敬一郎も在宅していた。


                               つづく

次回22回は12月19日火曜日午前10時に掲載します