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    19、仇討ちの旅

 波江が両国橋を渡り切った時、雨は止んだ。急に道路が賑やかになった。


荷車や人の往来が始まった。浅草が近いせいもあり、やたら荷車が行き交う。


 本所の長屋に着くと、弟の川瀬敬一郎が怪訝な顔をして言う。


「姉上、どうかなされましたか?」


 いつになく沈んだ波江の顔を見て言う。


「新見様ではないかと思います。顔を確認したわけではありませんが」


「本当ですか?場所はどこです?」


「深川です」


「深川は、探し始めて二年になりますが・・・」


「今日は雨のこともあり、遠くへ行かず街中を探しておりました。引越しを装い一軒目の人に、どんな人が住んでいるのか聞いたのです」


「姉上、早く話して下さい!いたのですか?どうなんですか?」


 悠長に考え考え話す姉にじれて口を挿む。


「年齢は三十前後。元はお武家様だと言います。越してきたばかりで、名を一平様と言うそうです」


「何だか新見一郎と重なりますね。顔は見なかったのですか?」


「顔を確かめたくて、長屋の端で半刻程立っていたのですが、通る人に不信がられたようで帰って来ました」


「姉上、危険ですよ。もし新見だったらどうしますか?返り討ちにあってもおかしくないですよ」


「ただね、気になったことがあります。夫婦者だそうです」


「それじゃ、人違いですよ。仇討ちを受ける身上でありながら、妻帯するわけないでしょう」」


「そうね、でも何だかとても気になるのです」


「身上を隠すための夫婦と言うこともありますね」


「そう言う姑息なことを新見様はなさらないでしょう」


「それじゃ、違うと言うことでは無いですか」


 敬一郎は座を正座に改め、姉波江の顔を凝視した。


「実は姉上、今まで黙っていたことがあります」


「何ですか?それは」


「父上は自害だったようです」


 波江は顔を強張らせて聞き返す。


「自害とはどう言うことです」


「三年前、江戸へ出る前日。父上の友人谷村様から呼び出されました。当然激励される事と思いました。ところが驚愕のお話でした」


「父上が斬られたのは、いきなり斬りつけられたのでは無く、果し合いだったそうです」


「父上の取り巻き三人が、藩試合の判定を不服として、父上の承諾無しに新見様に再試合を申し込んだそうです。真剣試合と決めたのもこの三人です」


「谷村様はこの後、驚くべき話をされました」


「果し合いの後、新見殿は、


『この果し合いが露見すれば、家は断絶身は切腹になるやも知れぬ。新見が試合後に流れた噂を恨みに、突然切りかかって来た。そして逃げ去ったことにしてくれ』


 と、父上や取り巻き三人に頼んだそうです」


「父上は新見様にすまぬ、すまぬと何度も謝っていたそうです」


「そして、新見様が見えなくなると、新見に迷惑はかけたくない。


私が自害すればことは済むと、片手で腹を割き、さらに首を引いて自害したそうです」


「何と残酷な!その時その三人は止めなかったのですか?」


「黙って見ていたようです」


「お父上は介錯なしに亡くなられたのですか?惨い。余りにも惨い」


「姉上!仇討ちと言うならこの取り巻きの三人です」


「よくぞ話してくれました。祖父(じい)は知っていますか?」


「いえ、知りません。ただ祖父は、父上の身体の斬り口を見て不信を抱いていたようです」


 波江は目を閉じ、両の手を拳に、固く握りしめていた。


「その三人の名前は何と言います?」


「谷村様は、それは知らぬと教えてくれませんでした」


「仇討ち免状が出されたと言うことは、藩内で知る者は関係者のみと言うことでしょう。しかし、谷村様はどうしてお知りになったのでしょう?」


「谷村様は新見に聞いて見ろとおっしゃっていました」


「一緒に来た常(家僕)が途中でいなくなったのは、そのことをどこかで聞きつけたのではと思っています」


「いえ、違います。勝ち目無い仇討ちに、嫌になったのだと思います」


「姉上!私は新見様にお会いして、事の真相を確かめたいと思っています」


 波江は、この三年間の憎しみ、辛さと苦しみは何のためにと空しくなった。


 反対に、父上の取り巻き三人への憎悪と悔しさに満ちた。


                                 つづく

次回20回は12月5日火曜日午前10時に掲載します