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       17、雨漏り

 「おきぬさんすみません。返す当てもなく、今朝はお米とお味噌をお借りしました」


「お貸ししたのではありません。差し上げたのです。お話しましたように、戴き過ぎて困っていたのです。帰りにもう少し持って帰って下さると助かります」


「ありがとうございます。実は昨日から何にも食べる物が無くなってしまっていたのです」


 志摩は俯いたまま話を続ける。


「ご近所は皆お借りしたままで、もう借りるところが無くなってしまったのです」


「私の家は隣ですよ。どうしてもっと早くお出でにならなかったのですか?」


「はい、まだ越して来られたばかりで申し訳ないと思いまて・・・・・」


 それを聞いていた一平は、それ以上言いにくい話をさせてはならないと話題を変えた。


「それはそうと、手習い者が一人もいなったのですか?」


「はい、どうしたら良いものか。途方に暮れるばかりです」


「それは困ったね。どうです、賃粉切りをしてみませんか?」


 意味がわからなかったのか、少し間を開けて、


「ちんこきりって、どんなことをするのですか?」


 志摩は怪訝そうに聞く、


「たばこの葉を刻むのです」


 志摩はほっとしたように、


「私にも出来ますか?」


「もちろん!教えますよ。慣れれば簡単だ」


 今日はたまたま、たばこ屋に刻んだ煙草を納めに行く日であった。


 一平はきぬに、志摩をたばこ屋に紹介するように言った。そして、たばこ屋おやじに賃粉切りは二人で教えると口添えをさせた。


 きぬは志摩を伴って、たばこ屋を訪ねた。おやじは手は足りてると言ったが、二人で教えると言うと、こちらからよろしく頼むと、手のひらを返したように早速仕事をくれた。


 十日の間慣れるまでと、一平の部屋できぬと志摩は三人一緒に賃粉切りをした。


 志摩の包丁さばきは歳の分だけ年季が入っていた。もちろん台所仕事でのことではあるが、たちまち慣れた。今では独り立ちして自室で賃粉切りをしている。


 それからひと月もしない内に、辞めた手習い者の六人が戻って来た。大男が出入りしなくなったとの、噂を聞いたからである。


 志摩は賃粉切りの収入を合わせると、十人の手習い者がいた時より生活は楽になった。


 季節は梅雨真っ只中。最近雨漏りがする。


 幸い台所だから受けるための桶は邪魔にはならないが、滴音が気になってならない。一平は大家に相談した。


 すぐ直しに来てくれた。同じ長屋の右端に夫婦で住んでいる瓦職人である。長雨で暇らしかった。


 この男は口数が少ない。


「ごめんよ!大家さんに頼まれた!」


 こちらの返事も聞かぬうちに引き戸を開け、入って来た。


「雨漏りはどこだ?」


 と言う。一平はつられるように、


「あそこだ!」


 と指さした。男は引き戸を音を立てて閉め、外へ出た。


 すぐに屋根の上からみしみしと音がした。四半刻もしない内に雨漏りが止まった。


 いつまで経っても男は入って来ない。外へ出て見ると男はいなかった。


 小雨の中、大家に直ったとお礼に行くと、


「変わった男でね。"直したよ!先生の所だから銭はいらねえ"と

帰って行ったよ」


 修理代は大家持ちのはずだから一平には関係ないのだが、一言お礼を言おうと、職人の家に立ち寄った。


 中から大声で怒鳴り合う声が聞こえる。


「何でお金貰って来ないんだよ!お前さん、もう、お米ないんだよ!」


「うっせー!先生とこじゃ銭は貰えねぇ!」


「なに言ってんだよ!大家さんが払うんだよ!」


「先生とこには変わりねえ!」


「あんた!水飲んで生きていけるの!」


「黙れ!」


 その言葉の後、どすんばたんと大きな音が続く。


 一平は思わず戸を開けて中へ入って行った。


                              つづく

次回17回は11月21日火曜日朝10時に掲載します