うちのひろと

♪退屈な待ち時間などに3分小説をどうぞ
面白い!気分が明るくなります。読後感が爽やかです
3分41話.5回8話.10回6話.15回7話.23回1話
時代小説9話
[がまの油売り][ひきょうもの][やぶ医者俊介]
[どんぶりめし][人に華あり][おつる][ちんこきり]
[護り屋異聞記] [片腕一刀流]
13、一平の過去
一平はきぬの不安そうな顔を見て、にっこり笑いながら淡々と話し始めた。
「四年程前の秋、藩で武芸を競う勝ち抜き試合が行われた。二組に分けられ、最後はそれぞれ勝ち抜いた者同士の試合になる」
「一組は私が勝ち抜いた。もう一組は友だった。試合は木剣」を遣い寸止めと言って、身体の一寸手前で止める決まりだった」
「正面左が私、右が友。暫時見合った後、同時に切りかかった。私は面、友は胴。審判は私の勝ちと判定した」
「ところが、友の取り巻き達が試合の後、友の勝ちだったと騒ぎ始めた」
「試合の場で審判への異議を唱えなかったのは、命の覚悟が必要だったからである」
「私は友が右袈裟に胴を斬って来ると直感し、その剣先が動く瞬間友の頭上で木剣を止めた。友の木剣は私の右脇で静止した。一瞬のことであり、相打ちに見えたかも知れない」
「その取り巻き達は言った。審判から見れば私の右胴は身体の影になり見えにくい。ましてや、真剣なら見える見えないもない。命を落としていたはずだ。勝敗は歴然だと言う」
「三日後、友と果し合いをすることになった。取り巻きがけしかけたのは後でわかった」
「結局、真剣での果し合いになった。だが友も私も真剣で斬り合うのは初めてだった」
「私は恐怖に満ちて身体が硬直してきた。友も同じようだった」
「私は誰か止めてくれと心で叫んだ。その時友の切っ先が動いた。馬鹿な!試合と同じく右袈裟に斬って来た」
「斬る気はなかった。雑念を入れた分だけ遅れをとった。避けられない。左手を切り落としてしまった」
「友は私に斬られることで、この勝負を納めようとしたようだ」
「本来なら、私が斬られていたはずだ。友の剣捌きは早い。私は一瞬の後れを取った。頭上に振り下ろす途中に、右胴は斬られていたはずである」
「私は友の腕をたすきで縛り、血止めをした。友は歯を食いしばりながら、すまないすまないと言った」
「その時、取り巻3人が駆け寄って来た。私は言った」
「この果し合いは無かったことにしてくれ。試合の噂を恨みに、私が不意に切りかかって来たことにしてくれ」
「そして、私が罪を恐れて逐電したことにしてくれ。友の手当てをよろしく頼む」
「そう言い置いて、その場を去った」
「そうすれば友は藩から咎めを受けること無くなる。そう思った」
「そして江戸へ来た」
「何故ですか?相手が悪いのに、なぜ犠牲にならなくてはならないのですか?一平さんは、ご家族のことはお考えにならなかったのですか?」
きぬは怒りをあらわにして言う。
「父母は前年に病で亡くなった。兄弟も無い。その私をいつも慰め助けてくれたのが友だった。友がいなければ、私は生きていなかったかも知れない。私の無二の親友だった」
「友には両親と娘と息子がいる。私は一人で身軽だったからね」
「しかし、それは誤算だった。友は私が去った後、あの場所で自刃した。取り巻き達は、私に斬り殺されたと藩に届け出たそうだ」
「それは江戸に来て半年経った頃、私の家僕からの手紙で知った。今は百姓をして暮らしているようだ」
「その姉と弟が仇討ち免状を得て、一昨年仇討ちの旅に出たそうだ」
「おかしいですね。なぜ、直ぐに仇討ちに出なかったのでしょ
う?」
「それは弟が元服するのを待っていたからだ」
「おきぬちゃん!私は敵討ちされる所以は無い」
ここで一平は沈黙し、目を瞑った。
しばらく目を瞑ったままでいたが、何か決意をしたようだ。目を開け、
「おきぬちゃん。これからも一緒に居てくれないか!おきぬちゃんといると、なぜか一日が楽しい。これほど一日が楽しいと思ったことはない」
一平は物心がついた頃から剣の修業をさせられた。苦痛だった。江戸に来てからは賃粉切りの毎日、食べるための作業だ。
しかし、今は違う。きぬがいる。いることが楽しい。賃粉切りを教えることも一緒に作業することも楽しい。
これが幸せと言うのかも知れない。生きる喜びを知った。一平は決意したように言う。
「どんなことがあってもおきぬちゃんを守る。一緒に居て欲しい」
「妻になってくれ!」
「はい!」
直ぐに答えた。きぬは泣きそうな顔になった。
そして、きぬは座りを改め両手をついてきっぱりと言った。
「いつまでも側に置いて下さい。どうぞよろしくお願い致します」
一平はせつなくて嬉しくてきぬを抱きしめた。
きぬは一平の温もりを身体で感じ、幸せの温もりを知った。
嬉しさに涙が込み上げて来た。きぬは急に声を上げて泣き出した。
堰を切ったように涙が溢れ出た。
つづく
次回14回は10月24日午前10時掲載です。
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