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     10、一組の布団

 きぬは帰りたくなかった。目を瞑って寝たふりをした。胸はどきどきと早鐘のように高鳴った。眠るどころではない。しかし、座ったまま一生懸命寝たふりをした。


 どれほどの時間が経ったのか、きぬは目が覚めた。横になっていた。肩先まで布団が掛けられている。そのままの姿勢で、そっと部屋を見回した。


 すぐ側で、一平が座ったまま目を閉じている。きぬは起き上がろうとした。一平の肩に、寒くないように何か掛けてあげようと思った。


「目が覚めたか、疲れたのだろう」


 いつの間に目を覚ましたのか、一平の優しい声音だった。


「すみません、寝てしまいました」


「良いんだよ。しかし、今日はもう遅いから帰って寝なさい」


 きぬは返事が出来なかった。


「おきぬちゃん、明日は休んで良いよ。ゆっくり身体を休めなさい」


「どうしてですか?私が邪魔ですか?」


 きぬは自分でも思いがけない言葉を吐いた。


「おやおや!寝起きで機嫌が悪いと見える。おきぬちゃんは食事の支度から掃除洗濯と私の分までしてくれる。いつも感謝しているよ」


 きぬはにこっとした。感謝していると言われて嬉しかった。


「お茶をお淹れします」


 一平の返事も聞かず、きぬは火をおこし始めた。やることがあって良かった。きぬは明るい顔になった。


「ありがとう。飲みたいと思っていたところだ」


「今、何刻頃ですか?」


「もうそろそろ、亥の刻(十時)になるかな?」


「私、半刻程寝たのですね」


「うん!良く寝てたよ」


「何だかもう眠たくありません」


 お湯が沸いた。二人はきぬの淹れたお茶を向かい合って飲んでいる。


 きぬは何か話そうと思うが、何も話すことは思い浮かばなかった。なぜか、胸がどきどきしてきた。


 一平は何か考えているようだが、沈黙していた。胸中はきぬへの思いでいっぱいであった。きぬを好きになっていた。しかし、心の中はその気持ちを必死に抑えていた。それには言えない理由があった。


 きぬは一平が口を開くのが怖かった。帰れと言われたらどうしようと不安だった。ときめきと不安が同居していた。


「おきぬちゃん、もう遅いから帰んなさい」


 やっぱりときぬは思った。そう言われたときの言葉が出来上がっていた。


「あたし、怖くて眠れないのです。夜になると天井で何か音がするのです。一人でいるのが怖くて、この頃ほとんど寝てないのです」


「ねずみかな?それにしても、それはいけないな!」


「だから、さっき安心して眠ったんだと思います」


 一平はきぬの次の言葉が読めた。言い出せないのもわかっている。


 一平は無言になった。しかし、言う言葉は決まっていた。だが迷っていた。


「じゃ、今日は泊まって行きなさい」


 言葉が先に出た。一平は自分でも驚いた。


「えっ、良いのですか!ありがとうございます」


 きぬは嬉しくて、顔中笑顔になった。


 布団は一組しかない。きぬに寝て貰うことにした。一平きぬに布団へ寝てもらい、自分は畳に寝ることにした。四畳半は狭い。布団を壁に寄せて敷いた。


「おきぬちゃん、ここに寝なさい!」


「はーい!こっち見ないで下さいね!」


 きぬは帯の音をさせながら襦袢一つになった。そして、布団に入った。


 隣で一平が畳の上に掛け布団をかけて横になった。


「一平さん、どうして畳に寝るんですか?お布団はどうしたのですか?」


「ああ、一つしかないんだよ。掛け布団は冬用に二枚あるからこれで大丈夫」


「ごめんなさい、気が付きませんで」


 きぬは一平に申し訳ないと思った。しかし、今更帰るとは言えなかった。また、その気はなかった。


「気にしなくて良いよ。ゆっくり安心して寝なさい」


「私、身体が小さいから隣がこんなに空いています。ここに寝て下さい」


「ばかなことを言うんじゃない!」


「でしたら私、申し訳なくて眠れません!」


 二人は何度か言い合ったが、結局、一平は根負けしてきぬの隣に寝た。


                                   つづく

次回第11回は10月3日火曜日朝10時に掲載します。

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10月10日 シャンパーニュ 19時から

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♪歌は小説と同じです。曲と歌詞の心を大切に歌います。

 ぜひ聞きに来てください。