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            1、賃粉切り

 そよぐ風がいくぶん頬に冷たくなって来た。冬の予感がする。


 深川は長屋がひしめき、多くの人々が生きている。その長屋の一つに変な男が住んでいた。

 

 仮の名を一平と言う。年の頃三十路を少し越えたかに見える。


 目は一文字に少し上がり、鼻筋通り口元はむんとへの字に結ぶ。苦味走ったいい男とは一平のことを言うのだろう。


 一平はこの長屋に住み、来月で一年になる。なぜか、一年ごとの引っ越しと決めていた。今度は四回目となるが、居心地が良くためらっていた。


 生業を賃粉切りとした。江戸に来て約三年になる。初めは、仕事どころか住むところを探すのが困難であった。


 七度目の正直と言うか、やっと仕事に落ち着けたのが賃粉切りである。たばこ屋から煙草の葉を預かり刻む仕事である。


 出来るだけ細く均等に刻むことが良しとされた。一平の刻んだ煙草は味が違うと高値で売られていた。


 たばこ屋の親爺は一平を店に抱えて置きたくて、長屋の身元引受人となるだけでなく、一平の要望に応じて次の長屋を紹介した。


「おはようございます!」


 長屋のおかみ達が三人、口々に挨拶をする。一平は挨拶を交わしたのみで、手早く顔を洗い口をすすぐとさっさと部屋へ戻って行った。


 口さがないおかみ達は、


「聞いた?ちんこきり(賃粉切り)をしてるんだって!」


「へーっ、あんな良い男がちんこきり!」


「そうだよ、いるのかいないのかちっともでて来ないしさ!


「しかし、気になってたんだよ、良い男だからね!」


「もったいないねー。あたしゃ、おこぼれにあずかりたいよ!」


「ばかね!あんたにゃおこぼれどころか拝ましても貰えないよ」


「それそれ!その方が良いよ!拝みたい!」


「ばか言いでないよ、あんたの拝むのはひなびた亭主の!」


「違げえねぇ、うちの亭主はひなびっ放しだよ!」


「あっははは!はははは、はははは!・・・・・」


 女たちは下卑た笑い声を出す。


「あーあ、あたしゃ煙草になって身体を刻んで貰いたいよ」


 一平が部屋の入口に入ろうとした時、見計らったように隣の入口が開き、女が出て来た。


「おはようございます。お隣に越して参りました、きぬと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 一平は黙って怪訝そうに女を見つめた。どこかで見た気がする。


「昨日お伺いいたしましたが、お留守のようでいらっしゃいましたので・・・」


「あっ、失礼致した。眠っていたかも知れない」


 一平は、誰が訪ねて来ても居留守を使った。きぬは二度訪ねていた。


 改めて女を見ると、澄んだ切れ長の目に愛らしい受け口の唇、すらりとした立ち姿。一平は郷里の波江を思い出し、どきりとした。


この三年間、女を意識したことは一度もない。自分を戒めていた。


「こちらこそ、よろしくお願いする」


 心とは裏腹にぶっきらぼうに言うと、さっさと部屋に入って行った。


 きぬは取り残されたように立っていたが、直ぐに思い直したように一平の部屋の入口に立ち、


「お尋ねしたいことがございます・・・・・」 


                                つづく

次回第二回は8月1日火曜日に掲載いたします