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   29、袱紗の金子

「お静、橘殿のお祝いだ」


 兵馬は袱紗包みのままお静に渡した。


「あのう、お訊きしても良いですか?」


「どうした?」


「橘様はどういうご関係の方ですか?」


「道場の高弟だ。師範代の兄弟子でもある」


「そういうことではありません。先生とのご関係です」


「同じ一刀流としての剣友だ」


 お静には訊きたいことの答えが違っていた。兵馬がわざと避けているような気がした。


「先生、おめでとうございます」


 源三郎が酌をする。兵馬は一口に飲み干す。


「源さんありがとう。さ、どうぞ」


「ありがたい!おこぼれ頂戴致します」


「そりゃ無理だね!おこぼれどころかみんな逃げてくよ。その髭は熊だ!」


 近くで聞いていた大工が口を出す。


「三太!おまえは何の話をしている?」


「かみさんでさあー」


「無礼者!よくぞ愚弄した。手打ちにしてくれる!」


「ひぇー!ご勘弁を!」


 源三郎は兵馬に会釈すると立ち上がった。


「みなさーん!宴たけなわです。ここでお手を拝借。お立ち願いたい!」


 割れんばかりの大声に一同立ち上がる。


「先生とお静ちゃんの幾久しい幸せを願い、三本締めとします」


「お手を拝借!いよーおっ!パパパンパパパンパパパンパン、いよっ!パパパンパパパンパパパンパン、もう一丁!パパパンパパパンパアパパンパン!」


 一同大きな拍手、そして鳴り止まず。


「源さん、人が悪いや。肝が縮まっちゃったよ!でも、手打ちには違いねえや」


「がはははは……悪かったな!」


 源三郎は顎髭をゆらしながら大声で笑う。


 兵馬の長屋へ二人は帰り着いた。4畳半一間は狭いがお静は一緒に住んだ。幸せな毎日である。


「はい、これ!橘様からのお祝いです」


 兵馬に渡そうとする。


「袱紗を開いてごらん」


 開けて驚いた。


「こ、これは……見て下さい!」


 お静は驚いた。十両の金子である。ずしりと重みがあったからおやっと思ってはいたが、まさかに十両とは。


「うむ、十両もあるか……」


 兵馬も絶句した。橘の思いつめたような表情が頭に浮かぶ。娘の幸せを願う親の顔であった。


「教えて下さい。本当のことを……」


 お静は幸せの絶頂にありながら、言いようの知れない不安に心が落ち着かなかった。


 兵馬は隠す必要は無いと思っていた。しかし、お静のことを考えると話すべきではないかと迷っていた。


 今更知ってどうなる。恨みを残すことになりはしないかとも思ってみた。


「お願いです。教えて下さい。何を聞いても驚きません」


「何が聞きたいのだ。話すことなどない」


 兵馬は言いながら心が揺れていた。


「母の所にお金を託された人は、橘様ではないでしょうか?」


「そうだ」


 兵馬は、即座に返事した自分が信じられなかった。


「母と別れた人でしょうか?」


 父ではとは聞かなかった。兵馬は黙って頷いた。


 橘がお静の父親であることは重蔵から聞いていた。その理由も二人のいきさつも。


「そうだとしたら恨むか?」


「いいえ、母から恨み言ひとつ聞いたことがありません。きっと何かわけがあったのだと思います」


「では話そう。母上と橘殿は夫婦も同然であった。橘殿は部屋住みであり、機をみて家を出る手はずになっていた。しかし、兄が急死して家督を継ぐことになった。武家は当然のしきたりである。そして兄嫁と一緒になった。その時、母上は身ごもっていた。打ち明ければ橘氏が苦しむだけだと胸に秘めた。その子がお静だ」


 お静は、いつも明るくしていた母を思い出した。胸の内はどんなだっただろうと思うと胸が張り裂ける思いだった。


 お静は目を両手で覆い、声を押さえて泣いた。


                      つづく

次回は最終回です。9月11日朝10時に掲載します。

今回は掲載が遅れて申し訳ありませんでした。