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   21、瓜二つ

 兵馬は驚いた様子もなく静かに聞いていた。


「今から二十二年前です。深川の街中で、与太者三人に乱暴狼藉されている浪人を助けました。その浪人を長屋へ送り届けると妹がいました。その妹が早苗です」


「いつしか恋仲となり夫婦約束をしました。私は部屋住みの身で家の厄介者でしたから、家を出て一緒に暮らし始めました」


「ところが兄が突然病死しまして、拙者が家督を継ぐことになったのです。早苗に話すと、


『お家の大事です。お帰り下さい。私のことはお忘れ下さい』


 と気丈にも言った。早苗の気持ちはわかっていながら断腸の思いで別れて来ました」


「兄には嫁がいて、嫁も継ぐことになりました。翌年、子が生まれそれが誠一郎です」


「ところが五年前、早苗の兄重蔵が突然訪ねて来ました。余程のわけありだったと思います。十両の無心でした」


「わけは早苗のことでとしか言いません。拙者もそれ以上のことは聞きませんでした」


「その時は都合がつかず、重蔵に三日以内に届けさせると約束しました」


「そして三日後、貴殿に届けて頂いたのです。迂闊にも重蔵の居所を聞いておらず、何があったかわからないが早苗も承知だろうと早苗の所へお願いしました」


「その際、娘御がいたとは信じ難いが。今二十歳とすると思い当たることがある」


「二十二年前の丁度その頃、早苗は時々体調を悪くしていた。今はその理由がわかる。娘御に会わせて戴けないだろうか?」


「会ってどうなさる」


 兵馬は冷たく言った。


「お願いでござる。会わせて頂きたい」


 橘は両手を付き頭を下げた。下げたままじっと黙っている。


「どうぞ、頭を上げて下さい。会うには娘さんの意向も聞かなければなりません。見るだけなら協力しましょう」


 橘は顔をぱっと明るくした。目を輝かすかのようにして、


「はい、承知しました。是非よろしくお願いします」


「では、明日か明後日の夜はご都合はいかがですか?」


「明日にお願い出来ますか?」


「では明日、深川八幡宮境内入口に暮れ六つにお待ちします」


(暮れ6つ=夕6時 明け6つ=朝6時) 

                      

 薄暗くなった境内は参詣の客もまばらになっていた。境内入口には橘が4半刻前から立っていた。


「橘殿、お待たせ致した。行きましょうか」


 兵馬の声にほっとしたような顔をして、


「お世話になります。よろしくお願い致す」


 そこから10町程歩いた。めし屋と書いた赤ちょうちんの前に止まった。兵馬はにっこり笑って、


「軽く一杯やって行きましょう」


 橘は戸惑った。武士の入るところではない。と思ったが兵馬に続いて入った。


 兵馬の顔を見ると気付いた客は、


「先生こんばんは!こんばんは先生!」


 と口々に挨拶する。しかし、後に続く橘を見ると声を潜めた。


 浪人はたまに入って来るが、武士が来たのは初めてだった。兵馬はいつもの席へ座った。橘はその横に座った。


「先生、お客様ですか?珍しいですね。今日はどうしますか?」


 お静はにっこり嬉しそうに言う。


「酒を2本頼む。つまみは任せる。二人前持って来てくれ」


 お静は橘にも、にっこりと愛想笑いをする。


 いつもは酒から飯までお任せにしている、今日は気を利かせたのか、お静は聞いた。


「はい、わかりました」


 お静は嬉しそうに調理場へ戻って行った。


 兵馬がふと橘を見ると、真っ青になってお静を目で追いかけている。


「どうかしました?」


「もしや、もしや、神代殿。娘御ではありませんか?」


「そうです。そのために来たのです」


「早苗に瓜二つです。こんなことがあるのか!」


                        つづく

次回は7月17日火曜日朝10時掲載します