うちのひろと

♪退屈な待ち時間などに3分小説をどうぞ
面白い!気分が明るくなります。読後感が爽やかです
3分41話.5回8話.10回6話.15回7話.23回1話
時代小説9話
[がまの油売り][ひきょうもの][やぶ医者俊介]
[どんぶりめし][人に華あり][おつる][ちんこきり]
[護り屋異聞記] [片腕一刀流]
20、夫婦の約束
夕暮れ近くになると肌寒くなった。三か月が過ぎてもうすぐ秋になる。二人には何の進展もなかった。
今では兵馬とお静は昼食を一緒にするようになっていた。お静は昼食の片付けを終えると帰って行った。
互いに想いはあるがきっかけは無かった。昼寝を誘うこともなかった。しかし、兵馬はあの日の口づけが忘れられなかった。
八月は夏の蔵米支給時期にあり、蔵宿師としての兵馬は多忙を極めた。さらに昼間は道場での指南があった。
その上、橘の探索をした。お静が帰った後、蔵前や番町を探し歩いた。番町に橘は一軒しかないことがわかった。
それは道場生の橘誠一郎の住まいだった。誠一郎から住まいへ誘われたことはあったが、万一を考え断った。
蔵宿師として顧客を訪ねることは御法度であった。ましていまさら自分から訪ねるわけにはいかない。
橘との再会は思いがけなくやって来た。
その日、道場生の指南を終え与えられた自室に戻り着替をしていると、襖を叩く者がいる。
「神代殿、ご挨拶を申し上げたい。よろしいですか?」
「どうぞ、お入り下さい」
着替えた稽古着を軽くたたみ、脇に寄せながら答えた。来客は襖を開けた。
二人は顔を見合わせると言葉を無くした。一瞬の間の後、
「神代殿、覚えておられますか?橘敬二郎です。蔵前でお世話になりました」
「なぜここに・・・」
兵馬は絶句した。
「今日は先生のお見舞いに参りました。先生が神代殿に是非会って行けとおっしゃるものですから」
橘が悪意で来たわけでないことがわかった。
「先生の具合はいかがでしたか?先月からお会いしておりません」
「大分体力を落としていらっしゃるようです。まだしばらくは御養生が必要かと思います」
「立ち話もなんです。どうぞお座り下さい」
兵馬は後ろへ回り襖を閉めて橘の前に座った。同時に橘は両手を付き深々と頭を下げた。
「橘殿、あの節は無理なお願いを受けて下さり、かたじけなく思っております。心からお礼申し上げる」
「どうぞ、頭を上げて下さい。その事についてお聞きしたいことがあります」
「話せることと話せないことがあります。御承知下さるなら伺いましょう」
「わかりました。十両は大金です。もし私が持ち逃げしたらと思われませんでしたか?」
「それはありません。初めてお会いした時、神代殿にお願いしようと思いました。人の善悪は顔に見ゆるものです」
「早苗殿がどうであったか、お聞きにならないのですか?」
「知りたい。しかし、お願いした以上信頼するしかありません」
「お話しましょう。早苗殿はどうしても受け取られませんでした。かなりの病弱のご様子でしたが、微笑みながら、
『お心遣いありがとうございます。元気でおりますゆえご安心下さいと、敬二郎様によろしくお伝え下さいませ』
と断られました。仕方なく私は、その十両を置いて逃げるようにして出て来ました…その後お亡くなりになられたようです」
橘はうっとを声を洩らしたが、涙をこらえた。しかし、涙は目から溢れ頬を伝って流れ続けた。
「橘殿、早苗殿とのわけをお教え願えないだろうか?」
「いや、それはご勘弁願いたい」
「実はそのお金は、今も娘さんが預かっている」
「何と!娘がいたのですか?」
「その娘さん、故あって存じております」
「御幾つぐらいでしょうか?」
「今年二十歳になられたようです」
橘は驚愕した。もしやと思った。
「神代殿、その娘御に会わせて戴けないだろうか?」
「わけがわからないのに、会わせるわけにはいきません」
「お話致そう。恥を忍んでお話致す。実は早苗とは夫婦の約束をしておりました」
つづく
次回は7月10日火曜日朝10時に掲載します
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