Shopping Cart
Your Cart is Empty
Quantity:
Subtotal
Taxes
Shipping
Total
There was an error with PayPalClick here to try again
CelebrateThank you for your business!You should be receiving an order confirmation from Paypal shortly.Exit Shopping Cart

      19、思い違い

 部屋中に味噌汁の良い匂いが漂っていた。


「お静ちゃん!来てくれたのか。ありがとう!」


「勝手に入ってすみません。昨日お約束したから・・・」


「はい!お土産。団子だよ」


 嬉しそうに渡す。自分で食べるつもりで買って来た団子。


「うれしい!お団子大好きです。でもなかなか買いに行けなくて」


「それは良かった。途中にあるからまたお土産にするね」


「はい!ありがとうございます」


 お静は嬉しくて跳ねるような声になった。生まれて初めて人に貰ったお土産だった。


 兵馬は腹が空いて、途中でその団子を食べようと思ったくらいである。武士がはしたないと我慢した。


 箱膳にはめざしと里芋に人参の煮物、きゅうりのぬか漬けが並んでいた。思わず生唾を呑んだ。


「うまそうだ!ご飯にしてくれないか」


 お静は直ぐに、ご飯とあつあつの大根の味噌汁をよそってきた。


(箱膳=食器を入れる箱。食事の時は上蓋を裏返しにして膳とした。江戸時代は卓袱台は無く各自は各々膳を持った)


 煮物がうまい。味噌汁がうまい。味加減が良い。めし屋で食べるよりうまかった。


「お静ちゃん、おいしいね。お店とは違う味だ」


「お店は親爺さんが作っていますから」


「そうか、お静ちゃんが作っていると思っていた」


「あたしのは母の料理です。母に教わりながら作っていました」


「そうか、母上は料理上手だったようだね」


「はい!色々教わりました」


 お静は嬉しそうに返事をした。兵馬ははっと思ったが明るい顔に安心した。


「お茶をどうぞ!」


 お茶を出しながら、軽い口調で兵馬に聞いた、


「先生、わかりそうですか?」


「少し日数がかかると思う。しばらく待ってくれ」


「もう、良いのです。今更わかってもどうにもならないことですし、母が話さなかったにはわけがあると思います」


「うーむ、わかった」


 兵馬は返事をしたが、橘のことが気になってならない。借金までして十両と言う大金を兵馬に託したのである。


 お静は食器の洗い物を持って井戸端へ出て行ったが、直ぐ終わり戻って来た。


「先生、あたし帰ります」


「お静ちゃん、世話をかけてすまない、しばらくは昼飯をお願いしても良いだろうか?」


「ええ、そのつもりです。明日また来ます」


「お静ちゃん、これ当座の買い物のお金です。よろしくお願いする」


 兵馬は一両の金を半紙に包んで渡した。


 (一両=約10万円)


「いただけません、おかずは家から持って来たものです。大したものではありません」


 お静は両手で畳を滑らすようにして差し戻した。


「それではお願い出来なくなる。あげるのでは無い、お米や材料などの支払いの金だ」


 今度は兵馬がその手に握らせた。


「道場通いが終わるまでお願いしたい。これから毎月渡します。もし、余ればそれは才覚です。返す必要はありません。よろしくお願いします」


 お静は兵馬の真剣で丁寧な口調に、受け取るしかなかった。


「では、お預かりします」


 立ち上がると、


「それでは、あたし帰ります」


 お静は二度目を言った。返事がない。止めてくれると思った。兵馬は昨日のことがあるので止めたくても黙っていた。


「先生、あたし帰ります」


 仕方なく引き戸へ向かうと、


「お静ちゃん、ありがとう。明日もよろしくね」


「はい」


 お静は一瞬間をおいて返事をした。何だか寂しそうに帰って行った。


 兵馬はやるせない気持ちになった。疲れていたが眠る気にはなれなかった。


                        つづく

次回は7月3日火曜日朝10時掲載です