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    13、かんざし

 お静は寝付けなかった。母のことが思い出されてならなかった。五年前のこと。春とは言え寒い夜だった。


「お静、ここに来ておくれ」


 弱々しい声で呼んだ。お静はすることもなく寒いので、膝の上に掻い巻きを載せて考えることもなく座っていた。


「はい!」


 母の枕元に寄って行った。


「大きくなったね。いつの間にだろうね」


 母はじっとお静を見つめながら言った。目に涙を浮かべていた。一本しかないかんざしを髪から抜くと、


「お静、これを挿してごらん」


 言われるままに、挿してるかんざしを抜いて母のかんざしを挿してみた。


「あら、良く似合っていますよ。これからお使いなさい」


「母様はどうなさります?」


 嬉しさよりも妙に心配になった。


「お静に使って貰いたいのよ。年頃なのに何もしてあげられなくてごめんなさいね。本当に良く似合っているわよ」


 野菊と撫子の花を透かし彫りにしたかんざしは、母よりお静に良く似合っていた。


 お静も似合ってると母に何度も言われ、嬉しくなりその気になった。


「母様ありがとう!」


 母の嬉しそうな顔が今も忘れられない。翌朝母は息を引き取った。


 母は父のことは何も話してくれなかった。お静がまだ幼い七つか八つの頃、


「あたしの父様はどこにいるの?」


 と聞くと悲しそうな顔をして、


「亡くなったのよ。今お空にいらっしゃるのよ」


 と空を指さし、いきなりお静を抱きしめ頬ずりをして、


「父様はいつも空から見てらっしゃるのよ。元気で頑張んなさいて言ってらっしゃるのよ」


 その時は亡くなったと言う意味がよくわからなかったが、母の悲しそうな顔は子供心にも焼き付いた。


 それからお静は父様のことは二度と聞くまいと思った。母が悲しむから。以来ずっと我慢していた。


 しかし、今思えば聞いておくべきだったと後悔している。


何か隠されたことがあるような気がしてならない。


 先生は調べておくと言っていたが本当に何も知らないのだろうか。ますます眼が冴えて来て眠れなかった。


 めし屋の朝は早い。親爺は暁七つ半(5時)から仕込みを始めている。お静は明け六つ(6時)に入る。


「おはようございます」


「おはよう!」


 親爺はお静を見るなり、


「お静ちゃん目が赤いぞ、どうしたんだ?」


「親爺さん、あたしの父は亡くなったの?」


 お静はいきなり聞いた。


「突然何を言うんだ!何かあったのか?」


「そうじゃないの。でもね、昨日、何気なくこのかんざしを見てて気になったの」


 お静はかんざしを抜いて手の平に置いた。親爺には見覚えのあるかんざしだった。


 野菊と撫子の花を透かし彫りにした銀のかんざし。妹の早苗がいつも大事に挿していた。


「・・・・・・・・」


 それを見た親爺は胸がいっぱいになり言葉が出なかった。


「母がいつも大事そうに挿していたけど、誰かに頂いたのかしら?叔父さん知らない?」


 まだ客がいないので思わず叔父さんと言った。


「お静、早苗が大事にしていたものだ。おまえがそうしていつも挿してくれて喜んでいるよ」


「叔父さん、あたしは聞いているんですよ。どうなんですか?」


「わしにはわからない。買ったものだろう」


「あたしはもう子供ではありません!その言い方は何か隠しています。いつもの叔父さんの言い方と違います」


「お静、何も隠してないよ。今となっては早苗の形見だ。そんなことはどうだっていいじゃないか」


「やっぱり、何か隠してます。教えて下さい」


                        つづく

次回は5月22日火曜日朝10時に掲載します

↓当時は銀色で柔らかく抑え気味に輝いていた