うちのひろと

♪退屈な待ち時間などに3分小説をどうぞ
面白い!気分が明るくなります。読後感が爽やかです
3分41話.5回8話.10回6話.15回7話.23回1話
時代小説9話
[がまの油売り][ひきょうもの][やぶ医者俊介]
[どんぶりめし][人に華あり][おつる][ちんこきり]
[護り屋異聞記] [片腕一刀流]
13、かんざし
お静は寝付けなかった。母のことが思い出されてならなかった。五年前のこと。春とは言え寒い夜だった。
「お静、ここに来ておくれ」
弱々しい声で呼んだ。お静はすることもなく寒いので、膝の上に掻い巻きを載せて考えることもなく座っていた。
「はい!」
母の枕元に寄って行った。
「大きくなったね。いつの間にだろうね」
母はじっとお静を見つめながら言った。目に涙を浮かべていた。一本しかないかんざしを髪から抜くと、
「お静、これを挿してごらん」
言われるままに、挿してるかんざしを抜いて母のかんざしを挿してみた。
「あら、良く似合っていますよ。これからお使いなさい」
「母様はどうなさります?」
嬉しさよりも妙に心配になった。
「お静に使って貰いたいのよ。年頃なのに何もしてあげられなくてごめんなさいね。本当に良く似合っているわよ」
野菊と撫子の花を透かし彫りにしたかんざしは、母よりお静に良く似合っていた。
お静も似合ってると母に何度も言われ、嬉しくなりその気になった。
「母様ありがとう!」
母の嬉しそうな顔が今も忘れられない。翌朝母は息を引き取った。
母は父のことは何も話してくれなかった。お静がまだ幼い七つか八つの頃、
「あたしの父様はどこにいるの?」
と聞くと悲しそうな顔をして、
「亡くなったのよ。今お空にいらっしゃるのよ」
と空を指さし、いきなりお静を抱きしめ頬ずりをして、
「父様はいつも空から見てらっしゃるのよ。元気で頑張んなさいて言ってらっしゃるのよ」
その時は亡くなったと言う意味がよくわからなかったが、母の悲しそうな顔は子供心にも焼き付いた。
それからお静は父様のことは二度と聞くまいと思った。母が悲しむから。以来ずっと我慢していた。
しかし、今思えば聞いておくべきだったと後悔している。
何か隠されたことがあるような気がしてならない。
先生は調べておくと言っていたが本当に何も知らないのだろうか。ますます眼が冴えて来て眠れなかった。
めし屋の朝は早い。親爺は暁七つ半(5時)から仕込みを始めている。お静は明け六つ(6時)に入る。
「おはようございます」
「おはよう!」
親爺はお静を見るなり、
「お静ちゃん目が赤いぞ、どうしたんだ?」
「親爺さん、あたしの父は亡くなったの?」
お静はいきなり聞いた。
「突然何を言うんだ!何かあったのか?」
「そうじゃないの。でもね、昨日、何気なくこのかんざしを見てて気になったの」
お静はかんざしを抜いて手の平に置いた。親爺には見覚えのあるかんざしだった。
野菊と撫子の花を透かし彫りにした銀のかんざし。妹の早苗がいつも大事に挿していた。
「・・・・・・・・」
それを見た親爺は胸がいっぱいになり言葉が出なかった。
「母がいつも大事そうに挿していたけど、誰かに頂いたのかしら?叔父さん知らない?」
まだ客がいないので思わず叔父さんと言った。
「お静、早苗が大事にしていたものだ。おまえがそうしていつも挿してくれて喜んでいるよ」
「叔父さん、あたしは聞いているんですよ。どうなんですか?」
「わしにはわからない。買ったものだろう」
「あたしはもう子供ではありません!その言い方は何か隠しています。いつもの叔父さんの言い方と違います」
「お静、何も隠してないよ。今となっては早苗の形見だ。そんなことはどうだっていいじゃないか」
「やっぱり、何か隠してます。教えて下さい」
つづく
次回は5月22日火曜日朝10時に掲載します
↓当時は銀色で柔らかく抑え気味に輝いていた
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- 22通り雨 23やきとりの串 24主婦の溜り場
- 25聞いて良かった26鈍感な男27今為すべき事
- 28ちびた鉛筆 29駄目なのは私30春が来た
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- 38傘の忘れ物 39節操 40悔い 41黒電話
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