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   あなたは恋を知らない 4

 帰りの電車の中で田村は後悔していた。又お会いしましょうと別れたが、会う日も電話番号すら聞いていなかった。


 それを聞く事は軽薄な男と思われたくなかったからである。彼女は綺麗だった。断られることも怖かった。


 帰宅して机に座り、購入した本の読みかけの箇所を開いた。彼女の顔が浮かぶ。


「読書中お邪魔しました」


 にっこり笑った彼女の顔を思い出す。女性の顔を思い浮かべるのは中学の頃以来である。


 中学の時、初めて人を好きになった。その彼女の横を通るだけで胸がどきどきした。


 学校に行くのは彼女に会えるからだ。いつも彼女のことを想っていた。


 成績も頑張った。順位が50番まで廊下に張り出されるからである。


 それは彼女も見る。二人は10番前後を行ったり来たりしていた。


 彼女と会えることで毎日が楽しかった。会えば胸が熱くなり淡い夢に満ちていた。


 しかし、それは長くは続かなかった。わかってはいたが別れがやって来た。彼女は女子高に入学した。


 考えてみれば彼女とは一度も口を利いたことはなかった。田村の片思いだった。彼女は知る由もなかった。


 それから三十数年の歳月が流れた。田村は人を好きになることはなかった。


 彼女を想い続けたからではない。いつの間にか忘れていた。それより仕事が楽しかった。そこには夢があった。


 今なぜか田村には、香山のにっこり微笑んだ顔が思い浮かぶ。今日一度会っただけの人である。


 ふと、田村は思い出した。彼女が音楽はYOSHIKIが好きだと言ったことを。


 パソコンを開いた。YOSHIKIを調べて見た。


 すぐに見つかった。どんな曲だろうとYouTubeを開いた。アニバーサリーと言うピアノコンチェルトライブが目についた。


(YouTube=インターネットの音楽音声情報)


 心が震えた。なんて美しい曲だろう。衝撃的だった。


 澄み切ったコバルトブルーの海の中を、陽光が幾重もの線になって煌めきながらゆっくり落ちて行く。


 いつの間にか田村の目に涙が溢れていた。


                       つづく

次回は7月6日金曜日朝10時に掲載します