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  あなたは恋を知らない 2

 男はあっと思い、拾い上げようとした。彼女が早かった。


「どうぞ!」


 拾い上げた彼女を見て男はどきりとした。


 切れ長の目に艶々とした黒髪のショートヘアー。ローズ色のルージュを塗った端正な唇。歳は四十前後。美人だ。


「どうもありがとう!こんなところでは何ですから、あそこに座りましょうか?」


 店の端を指さした。オープン形式の珈琲店である。どこまでが書店かわかりにくい。彼女はにっこり頷いた。


 男は時々後ろを振り返りながら歩いた。


 幸い、丸テーブルが空いていた。


「ここに座っていて下さい。珈琲で良いですか?」


「はい、すみません」


 男は珈琲を運んで来た。いつもブラックだ。彼女の分はわからないので、砂糖とミルクを一緒に持って来た。


「どうぞ!お飲み下さい」


「すみません、いただきます」


 彼女は改めて男を見た。紳士風でとっつきにくいタイプと思ったが意外と気さくな人。歳は四十前半かしら。


 二人は互いに同じ年代と思った。


 これってナンパと言うのかしら?私ナンパされたの?初めてあった人とお茶するなんて、私どうかしたのかしら。


 でも先に声をかけたのは私だわ、私がナンパしたの?違うわよ。本を取りたかったの。彼が珈琲に誘ったの。


 ナンパって軽薄な言葉。でも生まれて初めて。今まで誰も声をかけてくれなかったわ。


「さっきの本です。毎月立ち読みです。気に入った特集号だけ買います」


「音楽がお好きなのですね。私も好きです。毎月レコード芸音を買っています。今日発売日でした」


「どんな曲をお聴きですか?」


「室内楽が中心です」


「僕も良く聴きます。今はブルックナーの五番に凝っています。只、家族がうるさがるので困りますね」


「ご家族は奥様やお子様?」


「とんでもない!僕は独身です」


「あら、びっくり。どうしてかしら?」


「既婚者はみんな貴女のようにどうしてと訊きます。まるで僕が欠陥人間であるかのように」


「私も独身です。では私も欠陥人間かしら」


 男は言葉を失った。


                                つづく

次回は6月22日金曜日朝10時掲載です