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   あなたは恋を知らない 13

 長いエンディングに麗子は目を閉じた。終わるとゆっくりと座った。


 すぐ隣にいつの間にか田村が座っている。びっくりしたがそのまま座った。


 田村は拍手を忘れた。二人は無言のまま座っていた。画面はCM放送が始まった。田村は我に返った。


「素晴らしい歌でした。言葉を忘れてしまいました」


「あら、どんな?」


 麗子は急に笑顔になって悪戯っぽく訊く。それは咄嗟の作り笑顔であった。


「何を言おうとされたのですか?」


「いや、何でもありません。上手いですねと言おうとしただけです」


 田村はせつなくなっていた。もっと気の利いたことが言えないのだろうか。自分が情けなかった。


「今度は田村さんの番よ!何を入れます?」


「バラ色の人生お願いします」


「これもシャンソンですね」


 麗子は検索始めた。


「沢山ありますよ。誰の歌にしますか?」


「越路吹雪にして下さい」


 田村は立って歌い始めた。直立不動と言った感じで一生懸命に歌った。


 歌は音程が始終外れた。伴奏が無かったら、誰もバラ色の人生とはわからないだろう。


 麗子はその田村の歌がせつなかった。田村の顔を見た。目を閉じて歌っている。歌詞は、

♪私の思ってる あなたの面影♪


 音程などどうでも良い。麗子の心に電流が走った。田村を見ていられなくなった。歌詞が心にどんどん寄せて来た。


♪あなたに会うと 私の胸ときめく♪


 歌が終わると麗子は力いっぱい拍手をした。田村は照れくさそうな顔をした。

「香山さん、もう一度 Forever love を歌っていただけませんか?」


「良いですよ。好きな歌ですから」


 麗子は先程以上に心を込めて歌い始めた。

♪もう壊れそうな All my heart♪


 田村の心の歌だった。歌は続く、


♪このままそばにいて 夜明けに燃える心を抱きしめて

Oh stay with me♪


田村も目を閉じ、じっと聴き入っていた。歌が終わり麗子はため息をつくかのように座った。


 田村は麗子のそばに寄り肩に手を回した。そうせずにはいられなかった。


 麗子はあまりに突然のことで身を固くした。田村にはそれが伝わった。


「ごめんなさい!」


 田村はあわててそばを離れた。嫌がられてしまった。当たり前のことだ。


 今までにそんなことは誰にも一度もしたことはなかった。魔が差したとはこのことだろう。


 身の程を知れ!田村は改めて身の程を知った。


                                つづく

次回は9月7日金曜日です